1033 御食つ国 志摩の海人(あま)ならし ま熊野の 小舟(をぶね)に乗りて 沖辺(おきへ)漕ぐ見ゆ
(御食(みけ)つ国 志摩の海人らしい熊野の 舟に乗って 沖辺を漕いでいるのが見える)
1034 古(いにしへ)ゆ 人の言ひ来(け) 老人(おいひと)の をつといふ 水そ 名に負ふ滝の瀬
(昔から 言い伝えられてきた 老人が 若返るというみずだぞ 名にそむかないこの滝の瀬は)
1035 田跡川(たどかは)の 滝を清みか 古(いにしへ)ゆ 宮仕へけむ 多芸(たぎ)の野の上(うへ)に
(田跡川の 滝が清いせいか 昔から 宮を建てて仕えてきたのだろう 多芸の野の上に)
1036 関なくは 帰りだにも うち行きて 妹が手枕(たまくら) まきて寝ましを
(関がなかったら せめて日帰りにでも ちょっと帰って 妻の手枕(てまくら)を して寝るのだが)
1037 今造る 久邇の都は 山川(やまかは)の さやけき見れば うべ知らすらし
(今造る 久邇の都は 山も川も すがすがしいのを見ると 都を作られるのも当然らしい)
1038 故郷は 遠くもあらず 一重山 越ゆるがからに 思ひそ我がせし
(故郷は 遠いわけでもない 山一つ 越えるだけなのに 恋しくわたしは思っていた)
1039 我(わ)が背子(せこ)と二人し居(を)らば 山高み 里には 月は 照らずともよし
(あなたと 二人でいさえすれば 山が高すぎて 里には月が 照らなくてよい)
1040 ひさかたの 雨は降りしけ 思ふ児が やどに今夜(こよひ)は 明かして行かむ
(ひさかたの 雨よ降れ降れ いとしく思う人の 家で今夜は 明かして帰ろう)
1041 我がやどの 君松の木に 降る雪の 行きには行かじ 待ちにし待たむ
(わたしの家の 君をまつの木に 降る雪のように ゆきに行くことはしまい ひたすら待とう)