25 わがせこが衣はるさめ降るごとに 野辺のみどりぞ色まさりける
(わが妻が衣を張る季節になったが、その春雨が降るたびごとに、野辺の草木はしだいに色濃くなってゆく)
26 青柳の糸よりかくる春しもぞ乱れて花のほころびにける
(柳の枝がなびいているのは、まるで風が緑の片糸をより合わせているようである。そういう春だというのに、いっぽうでは花が乱れほころびるとは驚いたことだ。)
27 あさみどり糸よりかけて白露を玉にもぬける春の柳か
(新芽のついた枝を浅緑色の糸をより合わせたものとするならば、そこにおかれた白露は糸に貫かれた水晶の玉。それが春の柳である。)
28 百千鳥(ももちどり)さへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふりゆく
(種々様々な鳥が楽しそうにさえずる春だもの、見るもの聞くものすべて新しくなるのにひきかえ、私だけが年老いて古びてゆく。)
29 をちこちのたづきも知らぬ山中におぼつかなくも呼子鳥(よぶこどり)かな
(どこがどことも。見当さえもつきかねる山中で、寂しげに人を呼ぶように鳴く呼子鳥の声を聞くと、わたしはそぞろ不安の念におそわれる。)
30 春くれば雁かへるなり白雲の道ゆきぶりに言やつてまし
(春が来たので、北国に飛び帰る雁の鳴き声が聞こえる。それならひとつ、雁が白雲の中の道を飛んでゆくついでに、越路にいる友人に便りをことづけようかしら)