2007/5/27
31 はるがすみ立つを見すてて行く雁は花なき里に住みやならへる
(春霞が野山に立ちこめるよい季節になったのに、それを見捨てて北の国に帰ってゆく雁は、花のさかない里に住むくせがついているのだろうか)
32 折りつれば袖こそにほへ梅の花ありとやここに鴬(うぐひす)の鳴く
(花を折ったのだから、私の袖は匂っているのだが、花があるわけではない。けれど、梅の花がここにあるのかと思って鴬が鳴きにくるよ。)
33 色よりも香こそあはれとおもほゆれ誰(た)が袖振れしやどの梅ぞも
(わが家の庭前の花は色はとにかくとして、香りこそすばらしく思われるのだ。誰が袖を触れて、その移り香をこの花に残したのだろう。)
34 やどちかく梅の花植ゑじあぢきなく待つ人の香にあやまたれり
(庭先近くには、梅の木を植えまい。一本植えたところが、それがあまり高く香って、私が待っているあのお方の袖の香に、まちがえそうで困っている。)
35 梅の花立ちよるばかりありしより人のとがむる香にぞしみぬる
(梅の木の傍らに、ちょっと立ち寄るだけのことをしたところが、たちまちその香にしみてしまって、誰かの移り香と思われ、人から咎(とが)められる始末となった)

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2007/5/23
25 わがせこが衣はるさめ降るごとに 野辺のみどりぞ色まさりける
(わが妻が衣を張る季節になったが、その春雨が降るたびごとに、野辺の草木はしだいに色濃くなってゆく)
26 青柳の糸よりかくる春しもぞ乱れて花のほころびにける
(柳の枝がなびいているのは、まるで風が緑の片糸をより合わせているようである。そういう春だというのに、いっぽうでは花が乱れほころびるとは驚いたことだ。)
27 あさみどり糸よりかけて白露を玉にもぬける春の柳か
(新芽のついた枝を浅緑色の糸をより合わせたものとするならば、そこにおかれた白露は糸に貫かれた水晶の玉。それが春の柳である。)
28 百千鳥(ももちどり)さへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふりゆく
(種々様々な鳥が楽しそうにさえずる春だもの、見るもの聞くものすべて新しくなるのにひきかえ、私だけが年老いて古びてゆく。)
29 をちこちのたづきも知らぬ山中におぼつかなくも呼子鳥(よぶこどり)かな
(どこがどことも。見当さえもつきかねる山中で、寂しげに人を呼ぶように鳴く呼子鳥の声を聞くと、わたしはそぞろ不安の念におそわれる。)
30 春くれば雁かへるなり白雲の道ゆきぶりに言やつてまし
(春が来たので、北国に飛び帰る雁の鳴き声が聞こえる。それならひとつ、雁が白雲の中の道を飛んでゆくついでに、越路にいる友人に便りをことづけようかしら)

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2007/5/20
22 春日野の若菜つみにや白妙(しろたへ)の袖ふりはへて人のゆくらむ
(春日野の若菜を摘みにゆくためだろうか。若い女性たちが、白い衣装の袖を振って、遠路を厭わず出かけていくのは。)
23 春のきる霞の衣ぬきをうすみ山風にこそ乱るべらなれ
(春の女神のお召物は霞の衣だが、その織り糸が弱いので、思いやりのない山風のためにお召物が乱されそうだ)
24 ときはなる松の緑も春くればいまひとしほの色まさりけり
(松の緑は年じゅう色が変わらないが、その松までも春が来たので、今日は一段と色がまさっているのだ。)

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2007/5/14
19 み山には松の雪だに消えなくに都は野辺の若葉積みけり
(私のいる山中では、松の雪さえもまだ消えないのに、都では早くも野辺の若葉を摘む季節が来たことだ)
20 梓弓(あづさゆみ)おしてはるさめ今日(けふ)降りぬ明日(あす)さへ降らば若菜摘みてむ
(梓弓は押し曲げて弦(つる)を張るが、今日はおしなべて春雨が降った。この上、明日も降るならば、もはや若葉を摘めることだろう)
21君がため春の野にいでて若菜つむわが衣手(ころもで)に雪は降りつつ
(あなたに差し上げようと思って、春の野に出て若菜を摘んでいると、袖には雪が降りかかりますが、それを我慢して摘んだのがこの若菜なのです。)

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2007/5/5
14 鴬の谷よりいづる声なくは春来ることを誰か知らまし
(長い冬から解放され、谷間を出て梢にさえずる鴬の声を聞かないで、誰が春の来ることを知ることができようか)
15 春立てど花もにほはぬ山里は物憂かる根に鴬ぞ鳴く
(春になったが梅の花さえも咲かないこの山里では、鴬だけがつまらなそうな声で鳴いている)
16 野辺ちかく家居しせされば鴬の鳴くなる声はあさなあさな聞く
(わたしは人里を離れ、野辺の近くに住まいを構えているお陰で、鴬の鳴く声だけは毎朝毎朝聞くことができる)
17 春日野は今日はな焼きそ若草のつまもこもれり我もこもれり
(春日野の番人よ せめて今日だけは春日野を焼かないでくれ。わが愛する妻もこの野で遊んでいるのだし、私も遊んでいるのだから。)
18 春日野の飛ぶ灯の野守いでて見よいまいく日(か)ありて若菜積みてむ
(春日野の飛火野の野守さん、ちょっと野に出で草の様子を見てください。あと幾日したなら、若菜が摘めるのかしら)

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