娘は孤児である自分のことと重ねて……両親がいないために次々とふりかかってきた苦労や困難を考えて思わず「かわいそうね」とつぶやいたのではないか。だが兵士のいう「かわいそうだとも」は違う。彼女はすべてのものを持っているようで実はなにも持っていない。父と母をなくし、まわりは女王を利用し保身に走る大人だけ。だれも女王を一人の人間として扱わない。人間として一番大切なものを女王様は持っていないのだ。兵士はそのことを言っている。
総理大臣「この請願書に陛下のご決定をあおぎたいのでございます。死刑にせよとな さいますか、それとも釈放すべしなさいますか?」
女王「しやくほうすべし、しけいにせよ……死刑にせよにするわ。この方が(文字 が)少ないもの」
その決定になんの疑問もいだかずに総理大臣は請願書を処理する。大臣にとっては請願書の決定が死刑だろうが釈放だろうがそんなことはどちらでもいいのだ。女王の機嫌を害せず仕事がかたずきさえすれば自分の身の安全と地位は保たれるからだ。
教育係の女官長も博士も人間として女王を育てられなかった。それは幼いがゆえになにも判断できない女王であってもその意図に反することであればいつでも死刑に処することができるというとんでもない法律──たとえそれが教育に関わることであれ逆らうことができないという法律があり女王以外の人間はその意に逆らえない。だから女王は人にものを頼むことができない。そういう教育を受けることができなかったからだ。