読書感想文というにはもう一つ二つという感じの短文(読感一)。

『バカの壁』 養老孟司著
新潮社(新潮新書)
・養老孟司はなんとなく変で、興味深い人物
一時期よく聴いていたNHK「ラジオ深夜便」。養老孟司氏が定期的にコメンテーターとして出ていたのだけど、その時やや興味が。何しろあんまりしゃべらない。ラジオなのだからしゃべらなければ放送事故になりかねないのだが、アナウンサーにちょっとフラれても、「………」と、いかにも何かを考えている空気の末、「どうでしょう」とか、「よく分かりません」とかだけ言っていたように思う。その「………」という間に私は興味を持ちました。
実際にはお腹が痛かったとか、全然話を聞いていなかったとか、関係のない妄想をしていた可能性もあるが、私の解釈では、アナウンサーのフリと自分の知識や意見を照合した末、「…特に言いたいことはない」「…特に私には関係がない」「…そのフリには価値がない」などといった結論を出しているように聞こえた。
ややアナウンサーに同情しながらも、「なんとなく面白いおっさんだな」と。
本は読んだことがありませんでしたが、「都市というのは脳が作ったものであり、私たちは脳の中で生活しているようなものだ」的物言いは漏れ聞くに釣れ、なるほどな、と思ってました。
・で、結構話題の本らしい「バカの壁」
結構売れているらしい本書。たまたま読んでみました。
本書は養老氏がしゃべったことを筆記>本にしたもので、読みやすい。逆に言えば一つ一つの論点はあまり掘られていず、薄い。養老氏の思想入門というか、養老氏が言いたいこと最新レジメというか、そんなもんだろうか。
特に「意識と無意識」「身体と脳」「共同体」「都市」あたりをキーワードにランダムノート風に話は続く。
この人の知見は広く、話は結構あっちに行ったりこっちに行ったりするが、時にすげえ鋭い。時にすげえバカなんじゃねえのとも思う。バカなんじゃねえのと思う部分については、本書のタイトル通り冒頭に「バカの壁」の説明を鑑みると、ムムム、おれに問題があるのかもと考えもする。
その説明の一つは…
(1)脳には情報の入力と出力がある。
(2)入ってきた情報は脳でなんらかの一次関数に入れられる。
(3)一次関数の係数が正の値なら、その人はなんらかの出力をする。
(4)係数がゼロならその人にとってその情報は無意味。つまり話は聞こえていても、伝わることはない。
みたいなことである。この人の話にあまりに直情的に反対すると後で手の上で遊ばれた感を感じることになるかも知れない…。上の考え方自体に私は反発も覚えるのだが…。
ところで上の思考の流れをラジオでの彼の反応に当てはめて考えると、なるほどという感じですな(笑)。
・細かな反応だが…
本書の中ではほんの一節に過ぎないのだが、「aとtheの違い」の説明には「やられた!!」という思いだった。彼曰く、日本語にはaとtheに相当する区別はないというのは誤り、「が」と「は」の違いこそがそれだと。そ、その通りだ…。本の中には例文がないが、具体的には例えば以下のようなことだろう。
There is an apple on the table.(テーブルの上にリンゴがある)
The apple looks sweet.(それは甘そうだ)
以前大野晋氏の「が」と「は」の説明(「未知概念+が+既知概念」「既知概念+は+未知概念」)を読んだときも唸ったものだが、それ以上の鮮やかさだ。
・哲学
哲学の正式な定義というものを私は知らないが、結局「人を中心としたこの世の有り様の切り取り方」をそのまま提示するのがそれなのではないかと、私は思ってます(それが比喩による提示になる場合芸術)。
様々なレベルでの現在の日本の問題点を指摘しているこれは哲学の一種に他ならない。じゃ、この人は何者なのか。本来は解剖学者である。完全に理系の人がやった方が説得力があるというのが、すごく今日的だと思う。
日本で正統的?哲学が本当に意味を持ったことなど一度もないのかも知れないが、それが負うべき役割は完全に哲学から離れているね…。