
もう、かれこれ10分もこの状態(膠着状態)が続いております。
オジサンとこの魚との戦いが始まって20分が経過して、掛った場所からは既に300mは下流に走らされました。
胴長(胸までの長靴)の胸上から入った水で非常に重たくなった下半身のハンデを背負って早瀬の底に定位して全く動かなくなった魚との力比べですが、さすがにオジサンも疲れてきました。

何度か寄せてタモのとどく位置まで来ますが、タモを見るとまた猛然としたダッシュで突っ走り、猛り狂ったような1mもの高さのジャンプを繰り出します。

いったい、いつまでこの状態が続くのか?

コイツとは今年2回目の対戦で前回はオジサンの負け。
昨年、コイツは58pでしたがオジサンの1勝2敗。(コイツはメスです)
春の産卵を終えて日数も経過して水温も上がり、体調がどんどん良くなっているのか、今日もオジサンの劣勢が続いております。
ヤツの得意技は不意を突いた
”突然上流遡り攻撃”
と早瀬の急流に自分の体重と筋力を合致させた3種合わせ技の
”急流下りダッシュ”と”
猛烈弾丸ヒネリ込みジャンプ”
ヤツのダッシュ攻撃にはオジサンも竿を180°反転させて突進の進行方向を強制的に変える
”秘技!!”
扇返し!!!
を繰り出して応戦!!
オジサンもテンションや角度を変えて攻撃しますがヤツに全てあしらわれて勝負に決着が着きません。
300mも走らされたオジサンは腰と背中がピリピリと痛み、腕の筋力が消耗して竿にテンションを強くかけられないので肘に抱えている必死の状態。

体の模様と異常に大きい個性的な尾ひれの形から察すると、ここで生まれた完全な天然魚ではなく、小さい時に放流された養殖場生れのニジマスです。
好きでこの状態を望んでここに来たくせに、この状態から逃げ出したくて
「切ってくれ!!」
と思い始めてきた”ワガママな”オジサンがおります。
戦いが始まって約30分。
竿のテンションを緩めて休みたい衝動がありますが、緩めるとまた急流下りダッシュが始まります。ここまで水の入ってしまった胴長では今までのようなスピードで走ることはできないので、もう絶対に走らせたくない。
ヤツも苦しくて休んでいる。
上流を向いて胸ビレを潜行角度にして、早瀬の流れとラインのテンションのバランスを取り、グライダーのように水中を滑空しているだけなのでヤツはどんどんと回復してしまうに違いない。このラインの張りを維持しているのは精神力と筋力の限界だ。
このまま回復させてしまったら、もうこちらに勝ち目はない。
ここまで耐えたなら今日は勝てる!
最後の攻撃は今しかない!! と
オジサンは廻りを見回してどこかに流れの無い場所がないかと探して50m下流の淀みを見つけた。そしてヤツをそこに引き込み1.5号の糸に限界の負担をかけて強引に浅瀬に引き上げて空気を吸わせる荒技
”浅瀬引き上げ空気吸わせ攻撃”(とってもわかりやすい名前)
を敢行した。
淀みは浅く、ジャンプも流れを利用したダッシュ攻撃も封印されて
ヤツはついに腹を上に横たわった。
”終わった、かっ?勝った??、、”
しかし、
ダブルノックアウト
完全にグロッキーになって河原に座り込んでいるオジサンと水中で横たわる63pのニジマス。
ああ、、シンド。。
「 お、 お前、 強いな、 」
「来年さらにデッカクなったら、お前には絶対にかなわんな、もうお前の住んでいる瀬のポイントには餌を流さんよ!」
オジサンにはシンド過ぎる。。。
ある程度以上に弱ってしまった魚は本当に丁寧な蘇生を行ってリリースしないと酸欠の気絶状態から回復できないで死んでしまいます。
上流に向けて体を正対させて、自分で泳ぎ出すまで腰の痛さに耐えながら、いつまででも保持してあげます。
流れの強い本流にはルアー、フライの釣り人には絶対に攻められないポイントがあります。
彼女の住んでいるのはそんなポイント。
川に流されることもいとわない、本気の本流釣師のみが彼女と勝負できるのです。
また、餌釣りを含めてキャッチ&リリース派の多いこの十勝の川では同じ魚を何度も掛けることがあります。(ちょっと羨ましい)
「いい川だなあ、、」
ただ、1尾だけの魚を釣って1日分のエネルギーを全て消費、満身創痍の戦意喪失。(大満足と言いたいが、)
全身ずぶ濡れ、水の入った胴長をガッポン、ガッポンさせて伸びなくなった腰を曲げながら、歩いて帰るオジサンの背中は笑っていた。