「小泉八雲について──2」
この本のどこがいいかというと、出版された年代が古いということだろうけれど、まず小泉八雲の怪談および随筆(?)の日本語訳がとてもいいことと、使っている漢字と活字の書体が古めかしいのがよいのですね。
「狢」(むじな)という作品を少し引用してみよう。
東京の赤坂への道に紀國坂という坂道がある──これは紀伊の国の坂という意味であ る。なぜ、それが紀伊の国の坂と呼ばれているのか、それは私の知らない事である。
この坂の一方の側には昔からの深い極めて広い濠があって、それに添って高い緑の堤 が高く立ち、その上が庭地になっている。──道の他の側には皇居の長い広大な塀が 長く続いている。街灯、人力車の時代以前にあっては、その返は夜暗くなると非常に 寂しかった。ために遅く通る徒歩者は、日没後に、ひとりでこの紀國坂をのぼるより は、むしろ幾里も回り道をしたものである。これは皆、その辺をよく歩いた狢のため である。(新潮文庫・小泉八雲集上巻・戸川明三訳)
なんと格調高い文体だろう。日本の風土と文化を愛し好んだ(使い古されたフレーズだな)小泉八雲だが、やはり感覚は当然ながら日本人のそれとは少々異なる。例えば冒頭の狢がでるという紀國坂の描写をここまで丁寧に書いているのがおもしろい。そしてこの2冊のポイントはこの文庫本ではその小泉八雲の文章(もちろん英語)を複数の日本人が訳しているわけだが、この訳者たちが八雲の感覚をとてもうまく訳出しているということだ。なおかつその訳は日本人なら──あまり使わないような、少したどたどしいような不思議な雰囲気があって──その味わいのある訳が僕はとても好 きだ。
小泉八雲の作品はもちろん他にもたくさんの方々が訳しているが、それらの多くはあまりに流暢(?)な日本語で整然と訳されてしまっていてどうも面白くないのですね。