「小泉八雲について─8」
そして先にも書いたけれど田部訳の「ごめんして下さい」また「憐れんでください」という言葉に感動するのです。「ごめんして下さい」という言い回しは田部さんの特徴なのかもしれないが、「憐れんで下さい」という言い方はまあ普通の日本人ならば口語ではあまり使わない。4人の訳のうち「憐れむ」という言葉を使っているのは田部さんと上田さんの二人だ。他の二人はやはり「憐れむ」という言葉はふさわしくないと考えたのだろう。これは当然ながらラフカディオ・ハーンという人の文化圏・英語圏的表現のものではないか。でもそれを直に訳したのがかえって深い感動を与えてくれると思うのですね。
もう少しネチネチすると、犯人が思わず殺してしまった理由。この引用は先にもあげたけれど、
田部訳──逃げたさの余り恐ろしくて気が狂ったのです。
平川訳──ただもうおっかなくて、おっかなくて、逃げたい一心でやっちまった。
上田訳──ただ、逃げたいばかりに、こわくなって夢中でやったのです。
平井訳──ただもう、逃げてえばっかりに、ついこわくなって、無我夢中でやった仕事なんで。
田部訳だけが「気が狂った」としている。「無我夢中で」がふたつ。これも「気が狂ったてのがいいなあと僕は思いますねえ。原文の英語はなんだろう、「無我夢中」と「気が狂う」とどちらにもとれる単語はなんでしょうね。