「八雲を読む──「人形の墓」その2」
八雲は聞く。「なんですか、人形の墓とは」。
それは「墓はいつでも三つ」という言い伝えからきている。一家のうちで同じ年に二人の人間が死んだ時には必ず三人目が死ぬというもので、それをさけるために墓石に戒名を書き小さなわら人形を入れる墓を一つつくるという古い習慣である。稲の家では母と父が死んだ後この人形の墓をつくらなかった。
母が死んでから四十九日、魂が屋根を離れると言われる日。兄は熱にうなされ母が袖を引っぱるとうわ言を言う「はいはい、母さん、じき参ります」「あれ、あすこに居る、あすこに、見えないか」。見えないというと「ああ、早く見なかったからだ、母さんは今かくれている、今畳の下へ入った」──母は兄を道連れにしようとしているのだろうか。
さてこの時お祖母さんが立ち上がる。立ち上がって足をふみならして大きな声で母(つまり嫁ですね)を叱る。このおばあさんの言葉がとてもいいのですね。
「たか(お母さんのお名前ですね)、お前はたいへん間違った事をして居る。おまえの生きて居る時は私共は皆お前を大事にした。お前に邪険なことを云った者は一人もいない。今どうしてあの倅をつれて行こうとするのか。あれはうちの大黒柱である事はお前も知って居るだろう。ああ、たか、これはひどい、これは恥知らずだ、これは無茶だ」