「八雲を読む──「人形の墓」その5」
──稲の話しが終わり同情の沈黙の後(「同情の沈黙」は田部訳引用)、稲が帰ろうとしたとき八雲はこの話について萬右衛門老人に質問しようと立ち上がり稲の座っていた場所に立つ。すると……これは田部訳の原文でないと雰囲気が伝わらないので引用をまじえて書きますね。
「彼女は私の意向を認めて直ちに萬右衛門に何か不思議の合図をした。萬右衛門は丁度私が彼女の側に座ろうとしたのを止めて、その合図に答えた」
稲はなんと合図したのか。萬右衛門は言う。「稲は旦那様に先ずその畳をおたたき下さいと願っています」
「『しかし、何故』と私は驚いて問うた、ただその子どもの座っていた場所が心地よく暖まっている事だけを、靴をはかない足に感じた」
それは他の人の身体で暖かくなった場所に座るとその人の不幸を皆受け取ってしまう。だからその場所に立つには初めにその場所をたたかなくてはいけないと稲は云うのである。
八雲はそのまじないをしなかった。二人は笑った。そして最後に萬右衛門は稲にいう。こーのくだりがとてもよいのですね。
「『稲』、萬右衛門は云った。『旦那様はお前の不幸をご自分にお取りになります。旦那様は外の人の苦しみがお分かりになりたいと思っておいでです。お前は心配をしなくてもいいよ、稲』」