「オペラの台本についてちょっとだけ──7」
えーと、たとえば、モーツァルトさんとかってどうなさってますでしょうね。例えば……往年のスーパーコンビ、モーツァルトと台本作家ダ・ポンテの作品、『フィガロの結婚』……。
原作はボーマルシェですね。この当時の革命的原作はオペラにするにあたってものすごい検閲のためにかなり削らなければならなかった(んだそうです)。とはいえ、それでも文章量としてはかなりあります。
このオペラにたくさんある素敵なアリアやデュエットや重唱などなどをきちんと聴かせ、なおかつテンポ良くお話しを進めていくためにどうするか(『フィガロ』はけっこう複雑だと思うのです)、一つは「レチタティーボ」というものを使っていますね。「レチタティーヴォ」ってのは知っている人なら「ああ、あれか」と思いますが知らない人だとわかりにくいですね。
音楽之友社刊・標準音楽辞典にはなんと書いてあるか。「recitativo」(伊)〈叙唱と訳す〉。オペラ、オラトリオ、また、カンタータなどにおいて用いられる唱法で、旋律を美しく歌っていくアリアに対して、歌うより語る方に重点が置かれている。──そうですね。レチタティーヴォは、和音と音程は提示されているけれど、テンポや語り口は役者の自由度が多い「歌い方」で、非常に機動性がよい。これだと通常の芝居の台詞に近い柔軟な言葉の処理ができるし役のキャラクターも引き出しやすい。なおかつ音楽的な範疇からはあまりはずれないという便利もの。これはフルネームでいうと「レチタティーヴォ・セッコ」なんていわれていますね。セッコはまあ、乾燥とでも訳せますか。オペラ本編がオーケストラで進んで行くのに対し、レチタティーヴォの部分はチェンバロやピアノで和音が鳴らされる。無理矢理訳すなら、「乾燥叙唱」=「簡易的伴奏による叙唱」つーんでしょうかね。
レチタティーヴォはもう一つありますね。「recitativo stromentato」または「recitativo accompagnato」(発音は……レチタティーヴォ・ストゥロメンタート、アコンパニャート、かな)。ストゥロメンタートの方はオーケストラの伴奏によってレチタティーヴォの伴奏をする。そうするとどうしてもこれはやっぱり時間がかかりますね。『フィガロ』でいえば三幕(だったかな)、伯爵夫人のアリアや4幕のスザンナのアリアの本編の前に歌うやつなんかがそうですね。