「バイトの日々──1」
訳あってアルバイトをすることになった。
N市にある居酒屋チェーン店のT屋である。T屋は普段僕もよく利用する居酒屋である。バイトをしようとネットで調べた。仕事はあんまりハードでなければなんでもよかったのだができるだけ時間の融通が利きそうなところにしたかった。ネットの案内をみると短期でもOKということになっている。よしここにしてみるかと表示されたこのT屋に応募。程なく面接案内の電話が来る。職種はホールとキッチンだ。うーむ、どちらがいいだろう。さすがにこのトシで接客もなかろうとキッチンを志望する(意外かもしれないが僕は1987年にこんにゃく座に入って以来バイトらしいことをしたことがなかった。ありがたいことに年がら年中一般公演と旅公演があったからだ)。
さてT屋の面接だ。いったいどんなんだろうと緊張して指定された店に入る。すぐにこちらへどうぞと案内された面接室はかなり奥まった客室の一部屋だった。面接官はややラフな格好をしたお兄さん。失礼しますと入るとやはり面接をまっていた女の子が一人いた。書類に細かい個人情報を書き終わるととりあえずT屋はどんなところかというビデオを見てくださいということになったがこのビデオが不調。面接のお兄さんは何度かビデオを回してみたがダメ。仕方なく口頭でこのT屋のポリシーを説明する。「うちはたかがバイトという気持ちで仕事をされては困ります。お客様に十分なご奉仕を提供する理想をかかげています云々……」。ほうほう、企業ポリシーというやつかと思いつつ拝聴。僕は仕事場をあらかじめN市の店に指定したのだが説明を受けるにしたがってどうも必ずしも希望には添えないかもしれないことがわかった。最初に応募する時その旨は指定したのだが「それならいやです」というわけにもいかない。第一希望をそこにお願いしてあとはおまかせしますと言うしかなかった。
面接も終わり同輩の大学生の女の子(ほとんど僕の娘といっていいトシだ)と店を出る。「疲れましたね、ちょっとそのへんでビールでも飲みませんか」と話しが展開するとおもしろいのだがそんなふうになるわけもなく、お互い希望が通るといいですねと明るく正しく笑顔でわかれた。彼女の希望は通ったのだろうか。