「黒信号(大震災後に)」
夕闇の交差点を渡っているさなか、かの計画停電の幕は開けられた。
その瞬間、自転車の後ろに乗っていた娘が叫んだ。
黒信号!
明るさを失い、視界が闇に慣れるまで、往来はしばしの戸惑いを見せたが、すぐに何事もなかったように、ゆっくりと動き出す。
黒信号!
しかし黒い影は、影じゃない何かに確実に変わってゆく、じわじわと。
黒信号は、点滅することもない。
明るみに隠されていたものも、やがてそれぞれ現れはじめ、おのおの悠々と動き出すのだろう。
黒信号よ。
停電が終わり、身包みの一切が剥がされた、何かが辺りに普遍するとか、そんなことが起こることもないのだろう。
黒信号よ。
だから俺は、ことあるごとに、あの交差点にて瞳を閉じて反復することにしよう。何かが何かであり続けるためのもろさを、点滅すらできない他力の嘆きに代わって、黒・白と、意識のまばたきをし続けよう。

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