「制暦」2000年1月、世界自動車連盟は耳を疑うような発表をする。
「2001年度より、連盟が低公害車と認定した車両に関しては、各カテゴリーにおいて大幅なレギュレーション緩和を認めることとする。」
その内容とは、
1・搭載エンジンの二酸化炭素、窒素の排出量が市販車の規制値を下回る場合は、その排気量を制限しない。
2・認定車両は、車体寸法が規定内で、ゴム製のタイヤを介する車輪を駆動することによって走行するのであれば、機構的、形状的制限を受けない。
3・認定車両は、シート数に制限を設けない。
4・認定車両は、電子機材の搭載に制限を設けない。
5・認定車両は、空力装置に制限を設けない。
6・認定車両は、最低車体重量を未認定車両の3分の2とする。
7・認定車両は、年間生産台数を3台以上とする。
つまり、「環境に優しい」エンジンさえ積んでいれば、どんな化け物を作ろうと構わないのである。
各メーカーは色めき立った。様々なマシンが、まるで錬金術師の実験のごとく生み出される。また、過去に禁止された装置、技術が次々とアレンジされカタチをなしていく様は、まるで封印を解かれた魔物が雄叫びを上げながら世に飛び出していくのに似ていた。
こうして、スピードに魅せられたマッドサイエンティストたちの欲望が一気に開放され、昇華していった。
時に「制暦」2001年1月。新たなカテゴリーが創設された。
『GT−EP(エコロジカル・プロトタイプ)』。
やがて一部の好事家たちが使うカテゴリーの愛称が、急速に広まり、定着した。その名も「Gr(グループ).M(モンスター)」。地球に優しいレーシングマシン達は、その趣旨に似つかわしくない、とてつもなく凶悪な形をしていた。正に、モンスター。スターティンググリッドはさながら百鬼夜行の如し。
極彩色の異形(モンスター)たちがひしめき合うアスファルトのコロッセウムは、意外にもスムースに運営が成され、世界各地を転戦していく。そのピークは、初夏の南フランスで幕を開ける。
俺たちの、ル・マン。始まる。

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