2008/12/27

2008年12月  書評
○筆坂秀世「日本共産党」(新潮新書)
著書は不祥事で議員を離職した方でしたので実はあまり期待していなかったのですが、実に興味深い内容でした。共産党とは一枚岩の組織と思っていましたが、個人崇拝(企業でいうところの創業者等への崇拝と同じ)、官僚制、政策の無謬性、党員への責任転嫁(商品が売れないのは営業が悪いという感じか)、本音と建前などわが国の組織に共通した病理を抱えていたとは。新たな発見でした。

○松田博公「鍼灸の挑戦〜自然治癒力を生かす〜」(岩波新書)
鍼灸により自然治癒力を高めようとする努力や試みが詳述されていますが、鍼灸の限界が一切記載されていない点はちょっと気がかりです。鍼灸治療の絶賛だけでは一歩間違うと非科学的な治療を正当化しかねないからです。

○児島襄「将軍突撃セリ」(文藝春秋)
1970年代、日本人作家による硫黄島での戦いを描いた作品があったのかと感慨深く読了しました。日本人に広く知られるようになったのが米国映画をきっかけであったということに今更ながらがっかりしました。

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2008/11/2

2008年11月  書評
○長谷部恭男「憲法とは何か」(岩波新書)
清宮、宮澤、佐藤など戦前教育を受け著者のテキストで憲法を勉強した私にとって、憲法は「桐箱に入ったメロン」というものでした。本書は制定後60年を経て「手垢」にまみれた現行憲法を安易に改憲しようとする理屈をただすものですが、第一級の政治学の内容といってもいいと思います。手垢にまみれたからこそ今の憲法の意義があるとする著者のスタンスには強烈な説得力を感じます。新たらしい世代の憲法学者の登場ですね。

○長谷部恭男「憲法と平和を問いなおす」(ちくま新書)
本書は憲法の中心的な柱である民主主義、立憲主義、平和主義をホッブス、ルソーなどの社会契約論にまで遡り検証した良書です。憲法は準則ではなく「ある特定の方向へと導く力として働くにとどまる原理」をしめしたものとの冷徹な分析にもとづいています。それゆえ9条の含め改正の必要はないこととなりますが、一方で国民の不断の努力がなければ各条項は法律として機能しないことにもなります。実に考えさせられる硬派の内容です。

○白井恭弘「外国語学習の科学〜第二言語習得論とは何か」(岩波新書)
外国語収得についての本は数多く出版されていますが、本書は個人的な体験ではなく、第二言語習得(SLA)という研究分野での成果を踏まえた客観的な内容です。出典、脚注も豊富で内容もしっかりとしています。例文の暗記などのインプットを重視するのか、話すというアウトプットに重きを置くべきか、文法を学ぶ方法は効果的かなど、今まで感覚的にしか理解できなかったことについても現時点での研究成果を分かりやすく説明しています。

○アラン・グリーンスパン「波乱の時代 サブプライム問題を語る」(日本経済新聞社)
今振り返るとサブプライム問題の生成と崩壊、そして世界経済への影響をほぼ説明できるようです。しかしその時には誰にも判らない。やはり経済は感情で動くということでしょうか。





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2008/10/5

2008年10月  書評
○堀内都喜子「フィンランド 豊かさのメソッド」(集英社新書)
私がフィンランドにはまった1980年代、フィンランドといえば「フィンランド化」という言葉で言及される程度でしたが、今や教育をはじめわが国のモデルとなっているのは隔世の感がします。フィンランドの等身大の姿を描いている良書です。しかし筆者は無意識のうちにフィンランドの良い所と日本の悪い所を対比しています。高水準の教育、福祉を享受できる背景を「透明性の高い税金の使途」という一言で片付けていますが、なぜ高い税負担を許容しているのか、例えば中産階級が多数を占めるからか、愛国心が強いからか、政治制度が優れているからか、踏み込んだ分析をお願いしたいところです。ちなみにフィンランドは徴兵制の国です。一国を語ることは難しいですね。
(注)フィンランド化とは外交政策が事実上他国の影響化に置かれる状況をいいます。戦後、フィンランドが、隣国ソ連(当時)の影響下で厳しい外交政策を余儀なくされたことからできた言葉のようです。中曽根首相(当時)が「フィンランドのようにソ連のお情けで」云々と発言し、世界の顰蹙をかったことがありましたね。

○坪田一男「理系のための人生設計ガイド」(講談社ブルーバックス)
著者は眼科教授。理系といっていますが、社会人全般に通じる内容ですね。理系に進んだ愚息が読んでいた本です。

○今枝由郎「ブータンに魅せられて」(岩波新書)
鎖国を国是としていたブータンに長く滞在した経験を有する著者だからこそ描けるブータンの魅力というところでしょう。先進国ではもはや失われた自然(環境)や自然に対する畏敬、人間関係、宗教など実に興味深い内容です。ただあまりにもブータンの魅力を強調していますので、著者自身も指摘されているように先進国の恩恵を得つつ一時的に秘境体験を楽しむような優越的な気持ちが感じてしまいます。

○岩合光昭「ネコを撮る」(朝日新書)
ネコを知り尽くした著者ならではのネコ賛歌。写真の撮り方というよりはネコと人間の社会学というような内容です。


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2008/9/14

2008年9月  書評
○エリヤフ・ゴールドラット「チェンジ・ザ・ルール」(ダイヤモンド社)
ちょっと古い本です。ERPなど最新のコンピュータシステムを導入しても、社員の行動様式が変わらなければ、利益に結びつかないことを力説したものです。TOC理論になじみのある方にとっては、物事を考える際、手がかりになりますね。

○大岡昇平「ながい道」(角川文庫)
映画「明日への遺言」の原作で、B級戦犯として処刑された岡田資中将の法廷闘争を描いた作品です。法定での陳述などが中心ですのでけして面白い内容ではありませんが、戦争犯罪について深く考えさせられる内容です。部下に責任を転嫁しない姿勢は立派といわざるを得ません。旧陸軍にも良識派がいたことを再認識しました。

○岡田薫「捜査指揮―判断と決断―」(東京法令出版)
著者は元警察庁キャリア官僚ですが、一貫して現場重視の姿勢が保ってきた方のようです。裁判では違法合法の判断を数年かけて検討するが現場では一瞬で判断しなくてはいけない、など名言がちりばめられています。体感治安が著しく悪化する中では、著者のような考え方で現場を仕切る方を必要としているのでしょう。

○荒井信一「空爆の歴史―終わらない大量虐殺」(岩波新書)
空爆は「非文明国」に対する虐殺として始められたこと、空爆(原爆も含め)により戦争を終結させることができるというのは歴史的に見ても幻想であること、しかしながら空軍の存在を示すという政治的な理由から意義付けが行われていること、空爆が非戦闘員に対する虐殺に当たるか否かは勝者が判定してきたこと、など空爆を巡る歴史を体系的に整理した良書です。しかし最終章で、東京空襲裁判の対応を巡る国、東京都慰霊堂を巡る東京都、クラスター爆弾を所有している自衛隊への批判で終わっている点には、違和感を覚えました。国を批判しても何の解決にもならないように思います。残念ですが、自国国民に対する空爆のリスクを避けるためには自国も大量虐殺の手段を持つべきという相互破壊確証を乗り越える理論は得られませんでした。


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2008/8/9

2008年8月  書評
○アラン・グリーンスパン「波乱の時代」(日本経済新聞社)
上巻「わが半生とFRB」は回顧録、下巻「世界と経済のゆくえ」は世界経済の現状と見通しというべき内容です。「ヘッジ・ファンドなどの投資家の目的は、カネを稼ぐことだが、その行動によって非効率と不均衡が解消され、それによって、希少な貯蓄の無駄が減る」(下巻313頁)との表現に著者の世界観が表されているように思います。このような立場から見れば日本やフランスといった共同体的な経済体制は許されざるもの、遅れたものと一刀両断にされる対象にすぎず、日本等についての記述は実にそっけないものとなっています。一方、あれこれ文句を言いつつも中国は期待の星というべき存在のようですね。「ルービン回顧録」でも指摘したように、中国に対する素朴な評価は米国知識人の共通したものかもしれません。また中南米諸国の経済政策をポピュリズムとばっさり切って捨てているのに、ポピュリズムそのものといえる意味のない減税を行うブッシュ政権に対する評価はなぜか歯切れの悪いものになっています。しかしこのような点が気になるものの、本書が第一級の回顧録であり世界経済の分析であることは誰しも認めるところでしょう。

○白川英樹「化学に魅せられて」(岩波新書)
根っからの文系の私には第4、第5の対談部分しか理解できませんでしたが、常に問題意識を持ち続けることで、ニュートンがりんごの落下を見て万有引力を着想したように偶然を必然に変えることができるという旨の著者のメッセージには達人であるが故の重みを感じました。

○内田貴「民法V債権総論・担保物権」(東京大学出版会)
仕事で債権管理の知識が必要となり夏休みを利用して読了したものです。私の学生のころ、民法の教科書といえば我妻民法を理解するためのものでしたので、少々違和感がありましたが、背景には15年の全面改正もありますが、やはりバブル崩壊後の債権譲渡や担保物権の回収などの事例の集積が民法を大きく変えたように感じました。豊富な事例をベースに理論と実務の整合性を図ろうとする著者の迫力を感じましたね。

○山口厚「刑法入門」(岩波新書)
刑法総論、各論を平板的に記載するのではなく、構成要件、違法性阻却など刑法の中心となる考え方を巧みに解説した良書です。ところで刑罰とは通説では倫理違反としてではなく利益侵害として理解するそうですが、裁判員制度の下では法律に素人の裁判員は犯罪を倫理違反の程度から判断してしまう傾向にあると思います。そういう方向で裁判をリードしていくことを「是」としてこのような制度を導入するのでしょうか。裁判員制度導入の趣旨がかえって分からなくなってしまいました。




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2008/7/6

2008年7月  書評
○イアン・ユアーズ「その数字が戦略を決める」(文藝春秋)
統計学(絶対計算)と直観のどちらを信頼するのか。医師や野球スカウトなどの様々な分野の専門家が実は直観に頼っていることを批判的に取り上げています。また、直感的に理解しやすい統計学的な結論を支持する傾向にあることにも警告しています。物事を決める際に何を依拠すべきか、ということについて考えさせられる良書ですね。
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2008/6/15

2008年6月  書評
○本山美彦「金融権力〜グローバル経済とリスク・ビジネス」(岩波新書)
間接金融から直接金融への政策移行は、要は米国の金融ビジネスの優位をもたらすためのものであり、経済の主導権が金融ビジネスに委ねられつつあることに警告を発しています。昔、読まされたヒルファーディングなどの金融資本主義に関する著作のコンセプトを思い出しました。19世紀から20世紀にかけての剥き出しの資本主義の経済情勢と類似しつつあるのかもしれません。

○東照二「言語学者が政治家を丸裸にする」(文藝春秋)
政治家の言葉にある時は動かされ、ある時は動かされないのはなぜか、実に新鮮な視点に基づく分析です。心情に訴えるラポート・トークに優れた小泉元首相、レポート・トークしかできない安倍前首相など、政治学者の政治分析では得られない分析視座を得ることができました。

○高橋・河合・永田・渡部「不機嫌な職場 なぜ社員同士で協力できないのか」(講談社現代新書)

本書は、米国モデルの成果主義がもららした弊害をどのように解消していくべきかを提示したものです。その処方箋の基本的な考え方はかつての日本企業では当たり前であった職場の人間関係の復権にあるというのは皮肉なことかもしれません。もちろん単に社員旅行や飲み会を復活させれば良しとするものではないことも丁寧に説明しています。以前取り上げた「コーチングの神様が教える「できる人」の法則」の同じコンセプトであることにちょっと驚きました。どこの国でも同じ問題が生じているのですね。

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2008/5/4

2008年5月  書評
○半藤・保阪・中西・戸高・福田・加藤「あの戦争になぜ負けたのか」(文春新書)
この種のテーマ本は枚挙のいとまがありませんが、何がしかの新たな発見があります。この本では、戦時中のマスコミの役割、たとえば「平和より戦争のほうが面白い。視聴率も上がれば部数も出る。これはメディアの生理として、今も昔も抜きがたい真実」との指摘は重いですね。開戦に至る過程でのコミンテルンの影響など、冷戦後でないと議論できないような指摘も興味深いです。

○竹内正浩「戦争遺産探訪日本編」(文春新書)
戦争遺産を淡々と巡る紀行ですが、実に興味深い内容ですね。戦争の記憶が急速に失われていく中においては、特に貴重なのかもしれません。

○梯久美子「散るぞ悲しき 硫黄島総指揮官・栗林忠道」(新潮社)
ずっと以前ですが、米軍のフィルムを使った戦争ドキュメンタリー番組があり、そこで栗林中将を極めて高く評価していたのが印象的だったのですが、本書でそれを確認することができました。合理的な思考に基づく戦術が兵に死ぬよりも過酷な戦いを強いる一方で、戦術面では歴史の名前を残すことになったものの、大きな戦略には影響を与えなかったというのは、まさに「散るぞ悲しき」だったと思いました。以前も書きましたが、戦略眼のある合理的な将軍を戦術レベルの使い捨てで使用した旧陸軍の人事に致命的な欠陥があったいわざるを得ないでしょう。

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2008/4/6

2008年4月  書評
○岡田正彦「人はなぜ太るのか」(岩波新書)
まさに肥満を科学する内容。減量を考えている方は俗説に惑わされないためにも本書をお勧めしたいですね。それにしてもなぜ太るのかは科学的に解明されたいない点も多々あり、それがあまたのダイエット方法をはびこらせる一因になっていることが分かります。血糖値のあがり方は食品によって異なるというグリセニック指数には「目から鱗」でした。

○飯島勲「小泉官邸秘録」(日本経済新聞社)
本書によれば「説得しない、調整しない、妥協しない三無主義の小泉政権」はぶれないという一言に集約されるそうです。小泉政権のポイントは、政策決定に向けた人事と厳格な政策決定過程の管理にあるとの印象を持ちました。それを通じて官僚や党を管理することだできたのかもしれません。

○御厨貴・中村隆英編「聞き書 宮澤喜一回顧録」(岩波書店)
宮澤元総理は、講和会議、自由民主党の結党、日米繊維交渉、プラザ合意など戦後のあらゆる重要な場面に当事者として参加していること、現状把握・分析・外交交渉能力において他の追随をゆるさい英才を有していたこと、自民党内の調整は苦手であったこと、などの印象を持ちましたが、同氏が20世紀を代表する政治家であることは間違いないでしょう。しかし不良債権の問題点の所在を誰よりも早く気がついていながら「私が気がついて問題は指摘しているものの、そうだ、そうだと言ってみんなでやろうというようなことにはならないというのが実情」(285頁)と回顧するくだりを読むと同氏の限界のようなものも感じざるを得ません。

○小野寺誠「白夜の国のヴァイオリン弾き」(講談社文庫)
20歳代、フィンランドにはまり、「フィンランドの知恵」(サイマル出版)「フィンランド便り」(勁草)「フィンランドは隣国だ」(研光新社)などを集中的に読んだのですが、本書はそのとき読みもれたものです。同氏の「あの夏フィンランドで」の前書にあたりますが、ヴァイオリンを通じたフィンランドの民衆レベルでの交流が描かれています。言語学者等のエリートのそれにはない「生々しさ」は実に新鮮でした。ちょっと屈折した暗さがありますけど。


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2008/3/8

2008年3月  書評
○福澤一吉「議論のレッスン」(生活人新書)
論理学の基本的な入門書です。主張、根拠、論拠など議論を行なうに当たり必要な知識が整理されています。この種のテキストは著者の経験に基づくものが大半ですが、本書は論理学の成果を踏まえた入門書であり、一読に値するものです。

○P・クルーグマン「嘘つき大統領のデタラメ経済」(早川書房)
クルーグマンの翻訳は、国際経済のテキストも含め目を通すようにしていますが、本書は表題が通俗的で読んでいませんでした。たまたま友人に薦められ読了しました。2000年から2003年までの間、新聞に連載されたコラムを集約したもので、9.11を含み、ちょうどブッシュ政権の一期目に当たります。この間の経済政策を軸に政治、外交にまで及んいますが、どのコラムも論拠を示し、学術に裏づけされた骨太の内容です。このような変な表題をつけなければいいのにと痛感しました。ブッシュ政権がこれほどまで大資本のための政策をあからさまに取りながら、なぜ再選されたのか、米国政治の不思議ですね。少なくともわが国が、米国のような極端に二極化した階層社会にならないことを切に祈ります。

○堤未果「ルポ貧困大国アメリカ」(岩波新書)
本書はレーガン政権以降の新自由主義の行き着いたところ、つまり、貧しいが故に栄養価が低いが高カロリーのジャンクフードに頼らざるを得ない貧困者に生じている肥満(貧困ビジネスの実態)、民営化の結果、ハリケーンの災害等自然災害に対応できない結果生じた国内棄民、保険会社・製薬会社に富をもたらす一方で無保険者の急増の結果、途上国並みの医療も受けられない医療の実態、貧しさから軍や戦争請負会社に入りイラクに派遣される若者など、極端な民営化の結果、二極分化したアメリカの実態に迫る内容です。わが国においても「官が悪い」という一連の主張が支持されていますが、それは巧妙に仕組まれたものであり、実はビックビジネスにのみ恩恵を与え、結局は民営化を支持している中産階級自体の没落を招く、というのが本書のメッセージです。なお著者は米国のマスコミは大資本に牛耳られ、大資本よりの報道姿勢になっていることを深く憂慮しています。重たい指摘です。

○野矢茂樹「入門!論理学」(中公新書)
前掲「議論のレッスン」に触発され読了。本格的な論理学入門書であるため手ごわいが、総じて読みやすい内容です。否定、かつ、または、ならばなど論理を操るに当たっての文法がなじみやすい例をとりながら説明されています。筆者のユーモアが伝わってきます。



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