ガラスのかけら 7回目
ここのところこんな感じで霧がかかった道を歩いている感じだ。そんな時に突然恵が生活の中に飛び込んできた。美人だが激しい恵にまだ惚れてはいないと思う。でも寿司屋で黙って飲んでいる横顔は危ない感じだ。何度かの別れで僕は流石に臆病になっている。正直惚れるのが怖い。それの惚れないで済むやり方も覚えたと思う。会社でもいいなと思う娘はいる。けれど、そこへ意識を持っていかないようにしている。大体が恋は自分の思い込みで始まる場合が多い。一目惚れもあるが滅多にはあるもんじゃない。人生一度だけあるがでも些細なことでそれは終わった。
僕はリビングの飾り棚の中からグラスとウィスキーを取りだした。こんな時は酒でも飲んで忘れるのが一番だ。若い頃はウィスキーも高くて貴重品だったが、今は安い。特に海外からの輸入物は信じられないほど安くなった。人間不思議なもので安くなるとありがたみがなくなる。でも、まあシーバスリーガルの20年ものは悪くない。最近凝っているロックアイスでロックを作って飲み始めた。そして、その夜は一人で飲み続けて寝た。本当は最近始めた株のチェックをしなければならなかったんだが。しなければならないというのは嘘だが、最近の日課になっていた。ここのところ不調であんまり見たくない気もしてはいた。
それから暫く恵から連絡はなかった。僕の方からも連絡はしなかった。きっと恵は怒ったんだろう。あの感じではこれまできっと男たちにちやほやされて生きてきたはずだ。この前の僕はどう考えてもちやほやまでは行っていない。正直、何の前触れもなく来て去っていった恵を迷惑と思っていた。恵にすれば失礼な男だと思ったんだろう。
僕はいつものように管理職として坦々と仕事をしていた。会社の状態もよくも悪くもない。そんな中で今や中間管理職になった僕の仕事に変化はない。ただ、そんな状態に退屈し、不安もあった。これまで専門性で生きてきた。しかも、この会社では生え抜きでもない。会社がおかしくなったら真っ先に切られるのは僕じゃないのか。そんな不安で僕の精神状態は決して良くはなかった。どうにかしなくては。それで、株も始めていたのだ。でも、そんなに簡単に勝てるものではなかった。
ふと、僕は故郷に帰ってみようと思った。理由はわからない。故郷と言ってももう実家もない。僕は小倉で高校まで育った。父は僕が幼稚園の頃死んだ。もう、はっきりは思い出せない。それから、母一人で育ててくれた。兄弟は妹が一人、博多に嫁いでいる。でも、滅多に連絡はない。
何故小倉なのかはわからないが、多分関東を離れてみたいんだろう。そもそも旅行というものを修学旅行以外ではほとんどやったことがない。大学時代に友人と山に登ったことはあるがそれくらいだ。でも、あれを旅行とは言わないだろう。だから、どうしたらいいのか悩んだ。まあ、でも出張と思えばいいのかと思い直して、ホテルの手配なぞを始めた。今はなんでもインターネット経由でできる。