ここは豪華客船。長い船旅の始まりのその夜、盛大なパーティが始まっていた。
シャンデリア、一面の火の灯ったろうそくと花束。着飾った洗練された人たち。
シャンパンとオードブル。楽曲。宴はたけなわ。
やがて、ワルツが始まる。
何よりも踊ることが大好きなマリアも、すぐに踊りの輪の中に入る。
シャンパンの軽い酔いが心地よい。
広間全体のワルツの群舞。
すれ違いざまに投げかけられる恋のささやき。
見つめあいながら、手を取り合って踊りの輪を抜けていく者たちが、ちらほらといたが、マリアは踊り続けていた。
群舞の長い曲が終わると、テンポの速い曲に変わる。
年配者はメインディッシュを囲むために奥のテーブルに引っ込み、
広間は様相を変える。
あたたまった体は動きやすい。
結い上げた髪がゆるみ、ドレスが汗ばむ。
夢中になってしまって思いのほか酔いが回って、
まりあは席に戻った。
花かごの陰に隠れて、友達と髪を直し、
落ちかけている髪飾り花をお互いに挿し直す。
喉が渇いた。
本当に渇いた。
冷たい水を飲む。
広間にゆったりとした時間と談笑が流れる。
不意に、
今までに聴いたことのない音楽が始まる。
みな、興味をひかれて顔を上げる。
何が始まるのか、、、、、、。
音楽に乗って、
黒髪で、黒い瞳、異国の顔立ちをした何人かの男女が入って来た。
司会者が声を張り上げて 聞きなれない名前で彼らを紹介した。
彼らは人の魂の奥まで見通すような、
一度見たら決して忘れられない黒い瞳をしていた。
およそ、お上品なフロアーには似つかわしくない土の匂いと
決して下品ではない不思議な品格とを同時に持ち合わせている。
場違いなものへのさげすみと、奇妙な憧れの混じったざわめきが
広がるなか、
マリアは思った。
しなやかな野生の
うつくしい獣に似ている、と。
或いは、それは、
地にどっしりと根を張りながら、
どこまでも天に向かいまっすぐに立っている、
誇り高い樹のようにも思えた。
音楽に合わせて手拍子が始まる。
支配人があわてて指図をして、
何人かのボーイが急いで大きな板を
何枚も持ち込んでフロアーに置きに来る。
参加者たちがどよめいているなか、
ギターと歌が始まったと思ったら、踊り子たちが板の上に乗り、
一斉に足を踏み鳴らし始めた。
初めて聞く音と、今まで踊ってきたどんな踊りとも違う
燃え上がるようなその動きにこころを奪われ、
マリアの胸は激しく高鳴った。
彼らの踊りのいったい何がこれほど自分を駆り立てているのか、その秘密を探そうと、食い入るように彼らの動きを見つめた。
入れ替わり立ち代り、
フリルの豊かな鮮やかな色のドレスをひるがえし、
彼らは踊り続けた。
靴音、カスタネット、ギターと歌声、手拍子。広間の空気は一変し、
最初は興味本位に見ていた人々も、今はもう、誰もが彼らの踊りに魅入られてしまっていた。
やがてマリアは、
大柄な踊り手たちの後ろで手を叩き続けている、
黒い服を着たやや小柄な東洋風の男性に気づく。
派手な踊り手の後ろで、彼が絶妙なリズムを刻んで、その場の空気を支配していることに気づいたマリアは、彼の持つ不思議なちからに惹きつけられてしまう。
やがて、その男性が他の人間の手拍子に誘われるように舞台の真ん中に出てくると、
より大きな歓声と掛け声が、舞台に投げられる。
彼が踊り始める。
彼が足で刻むリズムの見事さといったら、、、、

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