ある古いアパートに一人の男性が住んでいた。
ここに住んで、もう10年以上になる。
近くに身寄りはいないようで、人の出入りを見た事がない。
年の頃は60少し前か…
現場でお仕事をする職人さんのようだった。
この男性、
今までただの一度も家賃を滞納することのなかった優良なお客さんだったのだ。
ある日、
「出張で3ヶ月間、家を留守にするから」と
家主の元へ3ヶ月分の家賃を持参して挨拶に来たのだという。
しかし、「3ヶ月後になっても次の家賃が入らない、今まで滞納が無かったのにおかしい。」と家主からの連絡を受け、一緒にアパートへ行く事になり、合い鍵をもって同伴した。
薄暗くなった夕方の5時、5月とはいえ、電気を付けずに室内を見渡すにはやや暗かったのだが、電気料金も滞納しているようで止められている。
部屋の鍵を開けて最初に入って行く事になったのは自分。
家主は、少し気持ち悪がって尻込みしているからだ。
まず玄関では、ドアポストから投函された数ヶ月分の新聞の山が行く手を阻む。
なんとか新聞を乗り越えてキッチンから手前の4畳半に入った。
4畳半の真ん中にはこたつが置いてあり、
周囲には沢山の服や新聞、雑誌が散らかっている。
そこを踏みつけてまで奥へ入っていくのはなんだか気がすすまず、
手前の4畳半から奥の6畳をのぞき込んでいた。
奥の6畳間には真ん中に布団が敷いてあり、
よもやそこに人がいるのでは…
と一瞬ギョッとしながらも目を凝らす。
しかし掛け布団は丁度起きた後のようにめくれ返っており、
人が寝ている様子はない。
「滞納と言っても、きっと仕事の都合でまだ帰ってきていないのかも…」と
安堵し胸をなでおろした。
…
しかし、この部屋の散らかり方といったら…
男の一人暮らしとはこんなものなのか?
新聞、雑誌…
こたつの手前、自分の足元には靴下・ズボン・ジャンバー…
靴下・ズボン・ジャンバー?
綺麗につながって……
つながって??
並んでる???
死体だった。
丁度出張に行く出がけに病気的発作に襲われたのか…
それは3ヶ月以上経過した、
ビーフジャーキー状の死体だったのだ。
時季的に腐る事なく、水分だけが蒸発して
真っ黒く、そしてぺったんこになっていた。
あと5p…いや、
2p進んでいたら間違いなく踏んでいただろう、その場所に。
すぐに警察に電話で通報、ご遺体は鑑識官が検死の為に運んで行った。
しかし、
仕事仲間やその上司はこの男性が出張に行かなかったのに、
誰も気付かなかったのだろうか…
気付いても家を訪ねる事すらしない程度の付き合いだったのだろうか…
あまりに孤独なこの男性の最後に立ち会ったその日は、なんだかむなしい気持ちにならざるを得なかった。

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