ここは、ある草原です。
ノウサギの親子が木陰で休んでいました。
「ねえ、お母さん」
子ウサギが言いました。
「あの、お空に浮いている白い物なあに?」
「雲よ」
お母さんが、眠そうな目をうっすらと開け、眠そうな声で答えました。
「じゃあ、あれは?」
「木よ」
「お母さんって、物知りなんだね」
子ウサギが感心して言いました。
お母さんは、前足をそろえて、その上にあごを乗せた格好で目を閉じています。
「お母さん・・・・・ぼく、つまらない」
お母さんはのっそりと置きあがり、背をそらせて大きなあくびをして座りなおしました。
「リムや、ノウサギは普通、昼間は眠っているものなのよ。何が狙っているか分からないからね」
「何が狙っているの?」
お母さんは、子ウサギの質問攻めに困ってしまいました。
「何が狙っているかって・・・・・それはおまえが大きくなったら、そのうち分かりますよ」
お母さんは、もとの体勢にもどって、目を閉じました。子ウサギも、しかたなく同じ格好になって、目を閉じました。
子ウサギの名前は、リムといいます。リムは、おでこに白い斑点が一つありました。リムは生まれて、まだ一ヶ月の子ウサギです。
二匹のノウサギは、眠りつづけていました。太陽がだんだん赤くなり、山の向こうに沈みはじめ、暗くなってきたころ、二匹は目を覚ましました。
リムは、友達と遊びまわっていました。ノウサギたちは、あまり親子でいることがありません。リムも、お母さんから離れて遊んでいました。お母さんは、食事をしに行っていました。
この草原は、広い草原を海とたとえると、森がいくつかの小島のように点々とありました。森の中には、ノウサギたちのほかに、いろいろな種類の動物たちも住んでいます。
草原では、たくさんの子ウサギたちがおもいっきり走り回っています。
リムたちでした。直線的にダーッと駆け抜けたかとおもうと、急転回してジグザグに走り回り、子ウサギ同士飛び越えあったりして、楽しそうに走り回っていました。少し離れたところでは、お母さんが、他の大人のウサギたちと草を食べながら、ニコニコして子ウサギたちの様子を見ています。
そのとたん、黒い影が頭の真上をさあっと流れました。大人たちは、長い耳をぴんと立て、後ろ足でぱっと立ち上がりました。子ウサギたちも、不安に襲われ、小さくうずくまりました。ぎゃあぎゃあと、きたない声がします。カラスでした。大人のウサギはあまり襲われることはありませんが、子ウサギはカラスの餌になるのです“パン、パン、パン”危険警報の音がなりました。大人たちが発したものです。子ウサギたちは、ほとんど同時に飛び出し、小さな足をちょこちょこ必死に動かして、森の中に転がり込むようにして飛び込みました。
「私の子どもに何をするの!」
「あんたは木の実でも食べてたらいいでしょう!」
次々に文句の言葉が飛び交いました。
「べつにいいじゃないか、おまえたちだって草原の命の草を食べてるじゃないか!」
「草はみんなの物なのよ!人の子どもを食べるなんて!」
「ひとごろし!ひとごろし!」
カラスはぎゃあぎゃあいいながら森の奥へ逃げていきました。
リムは、初めての経験に命縮まる思いでした。これが狙われているってことなのか、とリムは思いました。けれど、狙われるというのはこんなたいしたことではないのです。まだリムはそれを知りませんでした。
しばらくして、リムたちはまた遊び始めました。今度は安全な森の中です。がさっと低木の茂みを飛び出して、空き地に出たとき、子ウサギたちははっと立ち止まりました。そこには、驚くほど大きなシカが立っていたのです。このあたりのシカの中では一番大きい、この森の王といわれる雄ジカでした。子ウサギたちが見とれていると、シカはちらと子ウサギたちを見て、悠々として去っていきました。子ウサギたちは目を合わせました。言葉も出ません。こんなに立派な動物がいることを知らなかったので、とても驚いていたからです。子ウサギたちは一散に親のところへかけていき、今見た出来事を話しました。お母さんたちはお互いに目を合わせ、にっこりほほえみあいました。子どもたちはまだ、この森のシカを見たことがなかったのね、とお母さんはおかしくなったのでした。そして、その動物は、自分たちの仲間なのだという事を子どもに教えました。
リムには、仲良しの友達がいました。ライニーという名前の女の子です。ライニーは、リムの巣の近くに住んでいて、毎日リムと遊んでいました。リムがぴょんぴょんと草原に出て行くと、ライニーもついてきて、一緒に走り回りました。ライニーは時々、危ない事までやってのけるので、周りのウサギたちに、命知らずだといわれ、頭が悪いとからかわれることがありました。それでもリムは、彼女と毎日遊んでいました。ライニーのほうもリムを信頼しているので、リムが話をすると真剣に聞いて、「すばらしいわ!」と感心してくれるのでした。あんなのと仲良くするなんてリムはどうかしている、といわれることもありました。でも、リムはそれで楽しいのだから、そんな事には耳を貸しませんでした。お母さんも、そんな話はしませんでした。お母さん同士、仲がよく、昔から、ライニーがとても好奇心旺盛だという事はよく知っていたからです。
ライニーは、いつもリムに、お話をして、とせがみました。リムはそういわれると、すぐにいろいろな話をして聞かせるのでした。
リムは、ライニーに話をした日は、いつも巣に帰ってお母さんに、報告します。リムのする話はたいてい作り話で、他のウサギはばかにするので、ライニーにしか聞かせないのです。ライニーも、リムの作る話がだいすきで、いつもそれを楽しみにしているのです。だから、ライニーの反応がうれしくて、それをいつも報告するのでした。

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