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隠しの洞窟の出口は、鬱蒼とした茂みに覆われていた。出口を隠すためにわざと手入れをしていない。ここが青竜島でいちばん高い場所である。龍の頭の形をした岩石が海に向かって突き出ている。松明の火を消さぬよう、そっと雷汪が辺りをうかがう。月はかなり傾いていた。星空が美しい。東は崖である。波が打ち寄せる音が激しく響いていた。
8人の若者は月光から身を隠すように前かがみになり、左手で刀を押さえ道なき道を踏み越えていった。
「だいじょうぶかなぁ、みんな無事だといいけど・・・?」
そうつぶやいた者に、黄泉の叱責がとんだ。集落までは距離がある。隠しの洞窟から南側の集落まではかなり歩かなければならない。
雷汪を先頭に8人の列が南に向かって進む。
島は静かであった。毎晩くりひろげられる酒盛りの声がない。すべてが夜のせいだろうか? 満月の晩に? 海賊にとって満月の夜は昼よりにぎやかなものだ。
黄泉は手下の歩みを止めさせ、島の東側の崖伝いの道に切り替えた。こちらならば、集落の様子を高みからうかがうことができた。集落に明かりはない。声もまったく聞こえない。
「うわッ」
後続の誰かが大きな声を出して転んだ。振り返ると転んだのはいちばん年下のイグナであった。北方の蝦夷から奴隷として買った少年であった。
「気色わりーもん踏んじゃったよ、なんだよ、これ?」
イグナは草むらからぶよぶよした物体を取り上げた。
「ん? なんじゃこりゃ?」
月の明かりにさらすと、それは子供の腕であった。イグナはすぐさまこわばった表情でそれを海に放り投げた。バカ、黄泉は舌打ちをする。遥か下方でポチャンと音がする。
「ヤベーぜ、黄泉の兄貴。ここらじゅうに転がってまさぁ」
8人の少年海賊たちは警戒を緩めることなく、背を伸ばし、辺りの草むらをそっと掻き分けた。たしかに、あちこちに人間の身体のあらゆる部分がバラバラにされて放置されていた。なぜいままで気がつかなかったのか。血のにおいがまったくしないからだ。黄泉は、1本の女の腕を取り上げた。ブヨブヨした不気味な感触が掌の上にある。冷たくなっているものの、硬直もせず、腐敗もそれほど進んでいない。切断面は熔けて固まっている。いったいどんな殺し方をすればこのような死体が出来上がるのか……。
「ひでぇ……、こりゃ、鬼丸のおっかあだ」
イグナがいう。船に残してきた青竜島生まれの海賊・鬼丸の母の首が、無残に切り落とされ地面に転がっていた。それを見たのを合図に、少年たちが騒然となる。
「だれだよう、こんなことしなくったっていいじゃねぇか」
イグナはいまにも泣き出しそうだった。
「動くな!!」
鋭く、黄泉は命令を下す。少年らは自分の母親もそこらに転がっているのではないかと気もそぞろだ。幼き日より武闘の訓練を施され、いざとなれば殺人鬼のように人を殺すかれらではあっても、もとより少年である。特に島で生まれ育った者は、母への思慕がつよい。
「動くなっていったって、兄貴・・・。かあちゃんが」
「泣けばおまえも死ぬぞ。これは検視ではない。どこかの海賊の襲撃をうけたか、あるいは……」
こたえなどありようもない。わかるのは何かが起こり、多くの者が死んだ、それだけだ。
「いまから島に残っているものを探す。だが、声は出すな。バラバラになるな。敵がいた場合はかならず3人で囲んで斬れ」
いらえは短い。黄泉がえりすぐって訓練を施し、手なずけた者たちだ。
8人は集落へ急いだ。集落へ近づくほどに死体の散乱は目に見えて増えた。自分の母を発見して絶句した者もいた。いまや島が全滅の憂き目をみたことは疑いの余地がなかった。島には最大で1000人が暮らしていたはずである。屈強の男たちの戦力は、けっして一方的にやられるようなやわなものではない。敵方の死骸がひとつとしてないのが不思議であった。しかも殺され方が異常だ。血の一滴も流さずに人間がブツブツにちぎられて捨てられているとは……。
蜘蛛丸が声をひそめていった。
「なぁ、黄泉よ。ここにあるのは女子供の死体ばかりだ。男たちはどこへ消えた?」
「船がなかったからな」
「女たちを残して逃げたのだろうか?」
「いまはまだ何もわからん」
「わからんこたぁないぜ」
雷汪が集落の方角を指差して、大きな声を張り上げた。

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