2
船を操舵しているのは、異国から連れてきた肌の浅黒い3人の船員であった。
名を、ターロゥ、パーヤン、ジグという。もともとこの船に乗っていた船員で、船の操舵にも長けているし、すっかり黄泉たちにうちとけ、仲間になっていた。
身振りを交え、パーヤンに遠くから島を周回させた。どこにも船はない。どこかの国の水軍によって検視があったとしても、すでにここにいないのは確かであった。かといって小船に乗り換え浜から上陸するのは危険すぎる。森の中腹に作られた集落から丸見えになるからだ。夜が深いとはいえ、満月。もし検視を受け、年老いた美輪玄光が島を明け渡していたとしたら、水軍の居残りが弓を引いて待っているかもしれぬ。切り込むには手勢が足らぬ。
船の乗組員すべてがたたき起こされ、甲板に集められた。
黄泉より若い9人の部下と、船とともに奪った異国の船員が3名。港のない青竜島では、大型船は島の北端の洞窟へ着ける。そこは海に向かってぽっかりと口をあけた鍾乳窟であった。ここに船を隠せば外部からは見つからない。
「鬼丸と相模、それにターロゥ、パーヤン、ジグはここで船を守れ。残りの者はついて来い」
手短に命令を下す。3名の異国の船員は武装解除させてある。残したふたりはてだれである。心配はない。
外洋の航海でなかなかの腕を見せた異国の3人であったが、青竜島ではまた勝手が違う。相模が舵を担当し、鬼丸が誘導した。船にはかがり火が焚かれ、暗い洞窟を黄色く照らした。
ギリギリまで入ったところで錨を降ろした。
「黄泉のアニキよ」鬼丸がいった。「船がないな」
「ああ。何が起こっているのかわからん。油断するなよ」
「侍がいたらどうするんで?」金切丸が不安そうな面持ちでいった。「みんな殺されていたら?」
金切丸は青竜島の海賊の子供として生まれているから、島の連中こそが家族のようなものである。島で生まれた者たちは、いちように不安そうだった。
「逃げるんでしょ?」鬼丸がいった。「いつでも出航できるように、船の向きを変えておくよ。そんなに時間はかからない」
鬼丸も青竜島の生まれである。口調にどこかぎこちないものがあった。
「金切丸よ」黄泉はいった。「何が起こったのかはまだわからん。だが、海賊は罪人だ。いつかこういう日は来るのだ。今日がそうなのかはわからんが、いつでも起こりうることだと覚悟だけはしておいた方がいい」
2ヶ月ぶりの帰島は、重苦しいものとなった。
黄泉から順に船を下りていく。
最後に上陸した赤龍進が、船に残った相模に向かって大声でどなった。
「あの船も見当たらねぇな。おまえの親父をだまくらかして盗んできた千石船さ」
相模は早く行けとどなり返しただけで、舵をきる作業に戻った。相模は香の国の出身で、豪商の息子である。一方の赤龍進は、やくざな名前を名乗って入るが、紀の国の侍、三橋信五郎の子供である。ともに、海賊以外の世界を知っている者たちであった。
先頭に立ったのは、ひときわ背の高い雷汪であった。雷汪は狗の国の有名な関取の息子であって、黄泉の仲間の中ではずば抜けて体格がよい。雷汪は後についてくるものを確認すると、松明を掲げた。
雷汪を先頭に、松明を頼って、8人は鍾乳窟をくりぬいて作った階段を駆け上がった。足元は滑りやすいが、かれらはわらじを踵と足首に固定しているので走っても転ばぬのであった。


0