2006/9/11

漁業権問題集中講座C「漁業権の侵害(1)」  釣りのマナーとルール
  

さて、次に所謂「漁業権侵害」の問題。
これは正直、かなりわかりにくい。

漁業権には、共同漁業権、区画漁業権、定置漁業権があり、私たち遊漁者との関係において特に問題となるのは、このうちの第一種共同漁業権である。

第一種共同漁業権は、特定の区域内で、定着性の強い特定の水産動植物(海藻類、貝類、たこ、えび等)を採捕する漁業を営む権利であり、その権利主体は、当該区域の漁業協同組合である。
漁業権は所有権と同じ「物権」であり、他人による侵害を排除することのできる強い権利であることから、第一種共同漁業権をもつ漁業協同組合(の組合員である漁業者)は、免許を受けた特定の区域内で、排他的に漁業権に基づく漁業を営むことが可能になる。
そして、かかる漁業権を「侵害」した第三者に対しては、漁業法に基づく罰則の適用がある。(漁業法143条1項「漁業権を侵害した者は金20万円以下の罰金に処す」)

ここで「漁業権の侵害」という概念が登場する。
漁業権について多くの誤解を生じさせている原因のひとつが、この「漁業権の侵害」という概念なので、ここできちんとその意味を整理しておきたい。

漁業権は、あくまでも免許を受けた区域内で水産動植物の採捕や養殖の事業を営む権利であって、所有権のように、特定の水面やそこに棲息する水産動植物を独占支配する権利ではないということについては既に説明した。
従って、遊漁者が漁業権の対象となっている水産動植物を採捕した場合でも、それによって「漁業権者に帰属すべき物を奪った」というような意味での違法性が生じるわけではないし、当然ながら「窃盗」にもあたらない(注1)。
漁業権の対象物を採捕する行為自体がただちに違法なのではなくて、その行為によって漁業権者の操業利益が害されることによって、はじめてその違法性が生じるのである。

ここで具体的なケースを見てみよう。
先に紹介した鹿児島県作成のハンドブックでは、漁業権および漁業行使権(組合員が漁業権を行使する権利。漁業権と一体のもの。)の侵害に該当する行為として以下の例を掲げている。
とても明確でわかりやすい説明なので、ぜひ理解しておきたい。

(1)漁場に現に敷設又は使用中の漁具や養殖施設をき損する行為
(2)現に行いつつある又はまさに行おうとする操業を妨げる行為
(3)漁場内において、漁業権の内容と同じ漁具・漁法によって採捕又は養殖する場合
(4)漁業権の内容となっている水産動植物の採捕を行った結果、生息等を害し、その漁場の価値を量的又は質的に著しく減少させる場合
(5)漁場内の土砂の採取、水質の汚濁、魚類の来遊を妨げる工作物の設置等、これらによって明らかに漁場価値の減損となる場合


要するに、ある行為が、漁業権及び漁業行使権に基づく漁業の操業を不当に妨害し、それにより漁業者の利益を損なう場合、かかる行為はすべからく漁業権を侵害する行為にあたり得るというのである。
第2講、第3講で説明した開業規制違反、行為規制違反の行為は、同時に、漁業権侵害にあたる可能性がある。
また、ダムからの排砂による漁場環境の悪化で漁業(行使)権が侵害されたとして妨害排除請求訴訟が提起された例があるが、これは上記でいえば(5)の類型にあたる。
漁業権の対象物を第三者が採捕することによる操業妨害(上記(4))は、いくつかの類型の中のひとつにすぎず、「漁業権の侵害」とは非常に幅広い概念であるということがわかる。

上の例を見ていると、私たち釣り人のちょっとした不注意が、漁業権を侵害するおそれがある場合も少なくないということに気づく。
たとえば、堤防周りに設置された漁網やブイに、針の付いた仕掛けやルアーを絡ませてしまった場合。
針の絡まった漁網の引き上げは漁師さんにとって大変危険な作業であり、まさに「現に行おうとする操業を妨害する行為」に該当する可能性がある(注2)。

最近、アジ釣リの人気ポイントだった某堤防が釣り禁止となった。
「いったい何故立入禁止になったんだ」と思われた方も多かったことと思うが、漁業権に基づく妨害排除(ないし予防)請求権の行使として、漁業権者が漁港施設の管理者である地方公共団体(漁港漁場整備法25条)に対し、正当な漁業の操業が妨げられないよう適切な施設管理の実施を要請した結果という可能性もある。

〜つづく〜
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(注1)
「窃盗」(刑法235条)とは、「他人の占有する財物を不法領得の意思を持って窃取すること」である。従って、海中に棲息して誰の占有にも属さず自由に動き回っている生物を捕獲しても、そもそも窃盗の要件を構成しない。

(注2)
漁業者の操業を妨げる行為は、悪質な場合には、刑法上の「業務妨害罪」にあたる可能性がある。漁場を汚損して漁を妨げたり、漁船の航行を妨げたり、漁港施設内で車両の運行を妨げたりした場合も同様。第8講参照。



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<参考資料>
「漁業法」
「漁港漁場整備法」
○水産庁HPより、「遊漁の部屋」
○鹿児島県HPより、「遊漁ハンドブック」


   


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