2006/9/10

漁業権問題集中講座D「漁業権の侵害(2)」  釣りのマナーとルール
 

「漁業権侵害」の意味をもう一度復習すると、「第三者が、漁業権に基づく漁業の操業を不当に妨害し、これにより漁業権者の利益を損なうこと」と整理することができる。
ここで、第4講で説明した漁業権侵害の例(4)をあらためて見てみよう。

「漁業権の内容となっている水産動植物の採捕を行った結果、生息等を害し、その漁場の価値を量的または質的に著しく減少させる場合」

第三者が漁業権の対象である水産動植物を採捕した結果、当該区域における棲息数を減少させるなどして、その漁場の価値、すなわち漁業権に基づく操業利益を著しく害した場合、かかる行為は漁業権の侵害にあたると説明されている。
法解釈としては、まさしくこの通りであろうと思われる。

このように言うと、「一人の遊漁者がサザエひとつ持ち帰ったくらいでは大した影響はない。漁業権の侵害とまで言うのは行き過ぎなのではないか。むしろ、漁業権を主張して遊漁者を排除するのは権利の濫用にあたるのではないか。」と思う方がおられるかもしれない。
その理屈にも一理あるかもしれないが、もう少し掘り下げて考えてみよう。

確かに、一人の遊漁者が採捕する量は、その漁場の全体規模から見ればごく僅かなものであり、それをもってただちに漁業権が侵害されたと主張するのは無理があるように思われる。
遊漁者の個々の行為に起因する具体的な漁業権者の損害を立証するのも容易ではなかろう(注1)。
漁業権の免許は公有水面において特定の事業者に対し独占的権利を付与する反面、当該事業者以外の第三者、すなわち一般国民の権利を制限するものであるから、事業者に一方的に有利に解釈・運用されたり、十分な根拠もないのに安易に権利侵害が推認されることがあってはならないことも当然である。

しかし、現実に、きわめて多数の遊漁者が連日漁場を訪れ、そこに棲息するサザエを次々と獲っていったらどうなるだろう。
その漁場の資源はいずれ枯渇し、漁業の操業に深刻な影響を及ぼすことになるのではなかろうか。
「共同しない多数の遊漁者」の個々の行為が、単独で見ればそれによって直ちに漁業権を害するとまではいえない軽微なものであったとしても、それらの行為が総体として漁業権者の操業利益を著しく害しているという事実が合理的に認められるのであれば、漁業権者が、漁業権に基づく妨害排除請求権の行使として、かかる漁業権侵害を構成する個々の行為の排除ないし予防を求めることは許容されてよいものと思われる(注2)。
具体的には、遊漁者に事情を説明して理解を求め、行為の中止ないし漁場からの退去を促す、あるいは漁場への遊漁者の立ち入りを制限する措置を海岸管理者等へ要請するなどの対応が考えられる(注3)。

あらためて言うまでもないことだが、漁業者との関係をいたずらに悪化させて、遊漁者にとって得なことは何もない。
堤防や海岸への立ち入りが制限されて残念な思いをするのは遊漁者自身である。
万が一遊漁者が海で遭難した時、真っ先に救助に向かってくれるのは地元の漁師さんたちだということも忘れてはいけない。
漁場を大切に守っている漁業者の立場を尊重し、敬意を払い、管理者の指示に従って各自が節度ある行動をとれば、無用の軋轢やトラブルも自ずと減っていくのではないだろうか。

「これまでの説明も踏まえてもう一度考えてみたけど、やっぱり漁業権の対象物は少量であっても獲らない方がいいね」と思われた方。
妥当なご判断だと思います。
ただし、それはあくまでも、現に漁業権が設定されており(注4)、漁業権を行使する漁師さんがいる区域内での話。

〜つづく〜
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(注1)
漁業権の侵害の事実は、これを主張する側において立証する必要がある。
具体的には、@「漁業権者における損害の発生」と、A「第三者の行為との因果関係」を、客観的な証拠を挙げて立証することとなる(第9講参照)。

(注2)
漁業権侵害を理由とする損害賠償請求を行うためには、漁業権者における具体的な損害発生の事実と、かかる損害と相手方の行為との相当因果関係を立証する必要があるが、妨害排除請求に関しては、現に損害が発生していなくても、相手方の行為に起因して損害が発生する高度な蓋然性が認められる場合には、容認されてよいものと思われる。
漁業法143条1項は、漁業権侵害行為に係る罰金刑(20万円以下)を定めており、遊魚者の行為が本罰則の構成要件に該当するほどの可罰的違法性があるというためには、当該行為が単独で見ても著しく漁業権を侵害すると認められる程度に悪質な場合でなければならないと考えられるが、かかる要件は、民事上の妨害排除請求が認められる要件とは別の問題というべきである。
なお、同条2項は、第1項の罪を「親告罪」と定めており、第三者の行為が漁業権の侵害にあたるとして処罰を求めるかどうかは漁業権者(=漁業協同組合)の裁量に任されている。

(注3)
妨害排除請求の趣旨に照らし、あくまで正常な漁業の操業のために必要な限度において認められるものであって、かかる限度を越えて遊漁者を排除するような過剰な規制が正当化されるものではない。漁業者、遊漁者双方の利益を考慮した適切な調整が求められる。なお当然ながら漁業者自身による「自力救済」は許されず、遊漁者に対する威迫、恫喝等による強制は違法行為となる可能性がある。

(注4)
第一種共同漁業権の対象となる水産動植物(海藻類や、アワビ、サザエ、ハマグリ、タコ、イセエビなどの定着性の水産動物)の種類は、同一県内であっても漁場区域ごと(漁協ごと)に異なっている。
ある区域では漁業権の対象でも、隣接する別の区域では漁業権の対象ではないという例は多い(詳細は後述)。


  


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