こころ改版 夏目漱石 (取扱:楽天ブックス)  小説

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■青空文庫から『こころ』を一部抜粋
十四

 年の若い私(わたくし)はややともすると一図(いちず)になりやすかった。少なくとも先生の眼にはそう映っていたらしい。私には学校の講義よりも先生の談話の方が有益なのであった。教授の意見よりも先生の思想の方が有難いのであった。とどの詰まりをいえば、教壇に立って私を指導してくれる偉い人々よりもただ独(ひと)りを守って多くを語らない先生の方が偉く見えたのであった。
「あんまり逆上(のぼせ)ちゃいけません」と先生がいった。
「覚(さ)めた結果としてそう思うんです」と答えた時の私には充分の自信があった。その自信を先生は肯(うけ)がってくれなかった。
「あなたは熱に浮かされているのです。熱がさめると厭(いや)になります。私は今のあなたからそれほどに思われるのを、苦しく感じています。しかしこれから先のあなたに起るべき変化を予想して見ると、なお苦しくなります」
「私はそれほど軽薄に思われているんですか。それほど不信用なんですか」
「私はお気の毒に思うのです」
「気の毒だが信用されないとおっしゃるんですか」


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■目次
こころ/道草


■青空文庫から『こころ』を一部抜粋


 私(わたくし)がその掛茶屋で先生を見た時は、先生がちょうど着物を脱いでこれから海へ入ろうとするところであった。私はその時反対に濡(ぬ)れた身体(からだ)を風に吹かして水から上がって来た。二人の間(あいだ)には目を遮(さえぎ)る幾多の黒い頭が動いていた。特別の事情のない限り、私はついに先生を見逃したかも知れなかった。それほど浜辺が混雑し、それほど私の頭が放漫(ほうまん)であったにもかかわらず、私がすぐ先生を見付け出したのは、先生が一人の西洋人を伴(つ)れていたからである。


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