水深110メートルもの深さに漁師の命とも
言える網一式が沈んだままです。
もし、網一式が上がらなければ、
約60万近くの損失になります。
こういう事態に備えて「スマル」という道具を
船底の奥深くから、引っ張りだしてきました。
このイボイボのついた突起物で海底に沈んだ
網一式を引っかける為の道具で、どの船にも
1つは搭載している最終兵器なのです。
しかし、この広い日本海の水深110メートルに
沈んだ網一式を引っかけるのは至難の業です。
海の神様や船の神棚に何度も何度も手を
合わせながら捜索活動を開始しました。
捜索開始時刻は夕方の19時過ぎでした。
「海の神様〜!何とか明日の朝までに
網を引き揚げさせて下さい!」と必死に捜索します。
「なぜ?明日の朝まで」かと言いますと、昔から取り決め
られている
漁師の掟が存在するためです。
それは、僚船が網や道具を落とした際に、
全船が協力して捜索するという掟なのです。
一見、海の男同士が助け合ういい掟に聞こえるかも
しれませんが、漁師の世界では、「他人の世話になる」
という事は恥ずべき行為なのです。
今回のケースですと、一旦、水揚げするために港に戻り、
トンボ帰りで捜索協力して頂く事になります。
貴重な睡眠時間を奪う事と2時間船を走らせる燃料代を
考えると、何としてでも自力で拾い上げたい思いです。
しかし、肝心の網一式がスマルにかかる
気配は一向にありません。
捜索開始から10時間が過ぎ、東の空が
だんだんと明るくなり始めました。
すでに集中力が途切れはじめ、体力的にも精神的にも
限界が見え始めていました。
無線では、今からこちらに向かうとの声。
「あぁ〜とうとう間に合わなかった〜」
「みんなに多大な迷惑をかけてしまうなぁ〜」
という落胆とあきらめの気持ち。
同時に、孤独な戦いから解放される
安堵の思いが込み上げて来ました。
「弁慶丸!これだけの船がかかりゃ〜あがるわいや〜」
と心強い言葉と共に、少し元気が出てきました。
そして、何隻が漁場に到着し、スマルを投入して
すぐに、弁慶丸のスマルに
当たりが・・・
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│●脱サラ船酔い漁師からの手紙
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│◎ 発行元 ---- 弁慶丸(鳥取県中央漁協本所所属)
│◎ Web ------- 脱サラ船酔い漁師・河西信明奮闘記
│
http://benkeimaru.com/index.html
│◎ 発行責任者 --- 河西 信明 (かわにし のぶあき)
│◎ Mail --------- benkei-maru0424@ncn-t.net
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