私はオックスフォードとは大学の名前だと思っていた。しかし正確にはオックスフォードとは沢山の私立大学が密集している街の名前でその集合体が街そのものを巨大なキャンバスのような形にしている。
私とカミさんが大好きなモンティ.パイソンのメンバーは(テリー.ギリアムを除く)オックスフォードとケンブリッチの卒業生で、彼らが卓越なユーモアを育んだゆかりの地に是非この機会に行ってみたいと思っていた。
ロンドン中央部のシェパーズブッシュからバスに揺られること一時間(この間高速道路に乗って田舎道を突っ切るのだが、牧歌的で美しい景観が車内から望める)、ついに学問の街オックスフォードへやって来た。
カーファックスと呼ばれる街の中心にある塔を目印にあたりを散策。途中で道を聞いたおばちゃん二人組、こちらが英語が不自由なのに延々と早口で喋り続けて凄いハイテンション。その姿が早くもモンティパイソンに出てくるペパーポットと呼ばれるおばちゃんたちにそっくりで思わずニヤニヤしてしまう。
大聖堂と大学が合体した名所、クライスト教会。まったく、イギリスの学生はこんなお城みたいなところで勉強しているのか。
礼拝堂に入ると怪しげなオルガンの響きが。まるで潜在意識下に響いてくるような低くうねる音色の中、ひたすらぼーっとキリスト教の異空間をさまようこの恍惚感。何だかこういう感じ知ってるなと思っていたら、ふと昔見たアラン.レネ監督映画「去年マリエンバートで」を思い出した。
この映画、知り合った男と女が「去年マリエンバートで会った」「いや、会わない」という会話を古い教会や宮殿を徘徊しながら延々と繰り返しているうちに妄想やら幻想やらが交錯してくる訳の分からない映画だったが、観ていると頭のトランス加減が心地よくて嫌いではなかった。
あの感覚は映画だけの物ではなかったようだ。ひとりでぼんやりと古い教会をうろついているときっと誰でもこんなトランス状態になるのだろう。
大広間、つまり学生たちの学食も見せてもらったが、何だこりゃ?貴族じゃねぇか!日本では三流大生から東大生までが金がなくて学食でカレーなんか食っているのに…。でも、私だったらこんな所じゃ逆に喉を通らないかもな.壁に張り巡らされた貴族たちや王家の肖像がコワイ!0
宗教画のミュージアムも見学。再び頭の中でキングクリムゾンが流れ出す。
他の大学も廻ってみた。見学させてくれる所あり、させてくれない所あり、金を取る所あり、色々あった。どの大学も本当宮殿のようだ。教育施設に関してはイギリスは圧倒的な迫力がある。私は大学に行っていないから別に何とも思わないが、これに比べたら日本のキャンパスライフなんて侘しいものだ(それが必ずしも勉強の質に結びつくものではないとは思うが…)。もしかしたらこの無駄(?)な豪華さがパイソンズたちの奔放なお笑い魂を産んだのかも…。
はっきり言って今日ばかりはイギリス人に頭が下がった。後日、ケンブリッチにも是非行ってみたい。
午後からまたにわか雨が周期的に降り始め、そのたびに図書館に入ったり歴史科学博物館に入ったり、しまいには駅の近くに「オニール」のチェーン店を見つけ、ギネスとマッシュポテトを頼んだ。
バスに揺られてロンドンまで帰り、シェパーズブッシュからチェズウィック行きを待って乗り込む。しかし、オックスフォードのバスのように親切ではなかった。アナウンスはないし運転手が飛ばす飛ばす。夜になると道も分からないし本当にチェズウィックにつくのかしらと不安になる。乗客はほとんど降りてしまって乗っているのは私とカミさんだけ、するとバスは見知らぬ教会の前に停まった。
運転手が「ここだろ?」というので降りてみたがまったく見覚えのない場所。
後で気づいたのだが、こちらの人はchiswickをチェズウィックとは発音しないらしい。彼らには私の「チェズウィック」が「church(教会)」に聞こえたらしい。
あ!っと思った時にはもう手遅れ。バスは闇の中へ…。
今日もこの寒空の下、歩きで帰宅か…。

0