2006年10月30日、私は三日間滞在した亜米利加から帰国した。
とにかく行き以上に最悪のフライトとなった帰りの飛行機の中で観た映画が、当時はまだ公開されたばかりだった「プラダを着た悪魔」である。
この映画はきっとこの航空機で観られる映画の中では、恐らく一番マトモに面白い映画だった。アメリカではずっと災難続きだったので、映画だけでも比較的マシなものに当たって良かった。
この映画の何が良かったっていったらズバリ、タイトルでしょう。この内容で「プラダを着た悪魔」というのはセンスあるなぁ…。これが「シャネルを着た悪魔」だとちょっと俗っぽくなっちゃうし、「ルイ・ヴィトンを着た悪魔」だと何か無理して頑張ってる感じがしちゃう。プラダというのが絶妙で説得力がある。まぁ、一昔前だったらこういう映画に「摩天楼はバラ色に」何て邦題を恥ずかしげも無くつけていたのだから、それに比べたら大した進歩である。
肝心の内容の方はと言えば、これはもうメリル・ストリープの芝居の巧さに尽きる。きっと同じ内容で別の女優を使っていたら、きっとここまでこの映画は輝かなかっただろう。そのくらいメリルが素晴らしかった。
まぁ、女の子はオシャレな服が次から次に出てきて、他に見所も沢山あるのだろうが、それは私とは無縁である。ただ、最初はダサかった主人公が服装を変えただけで急に仕事のできるキャリア・ウーマンに変身してしまう展開が、私にはどうしてもついていけなかった。私にも経験があるが、ダサダサ人間がオシャレを目指し始めた当初というものは様々は失敗を繰り返すものだ。それで恥をかいたり馬鹿にされたりしながら、その悔しさをバネにより自分に磨きをかけてゆくものなのである。この映画ではそこの一番肝心な部分がすっぽり抜けてしまっていた。もし私が監督だったらそこの部分を一番丹念に描くと思う。
恋と仕事の間で悩むという展開にしても、やはりその延長線上にないと深みが感じられない。自分を着飾るより「自分が正しいと思う道」を選ぶラストにしても、その根っこが抜けているからイマイチ伝わってこなかった。
まぁ、ストーリーには感情移入できなかったが、それでも充分楽しめたのは主人公にオシャレ道を説く上司を演じた役者と、やはりメリルの芝居(海原雄山ぶり!)が素晴らしかったからだ。話題作と言われるものはあまり好きではないのだが、観て損はない映画だと思う。
それにしても中国あたりで「プダラを着た悪魔」とかいうバッタモン映画が製作されたら面白いんだけどな…そしたら観に行っちゃうよ、いやマジで!

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