何だか凄くいい作品になり損ねてしまった映画…という気がしてならない。
松本人志の作品としてはVISUALBUMの「ゲッターマン」という作品が好きだった。やはりヒーローモノが題材なのだが、根底には「イジメ」のようなテーマが流れていて笑えるのだけど同時に背筋が寒くなるような、ああいう彼独特のペシミスティックなユーモアが私は大好きだった。
この「大日本人」も同様の暗さと可笑しさが融合した松本ワールドが冒頭から全開で、決して万人に受け入れられるものではないとは思うが、私は好きだった。そして、意外にも社会派的なメッセージもそこかしこにあった。最近の映画の傾向として社会派の実話やドキュメンタリーが高く評価されているようだが、それだけではちょっと寂しい。インタビュー形式のドキュメンタリーとCGアニメというファンタジー(この対比はまるで「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のよう)の融合に中で現代の日本人と日本社会を描くというのは大変面白い企画であると思う。
決して凄い映画というわけではないが、単純に「いい映画だな」と思って観ていた。
ところが、最後の最後でそれは裏切られてしまう。結局は「コントでした、チャンチャン」ということになってしまい、私は正直がっかりした。
これは恐らく松本監督のお笑い芸人としての意地だったのだろう。「いい映画なんか作ってたまるか!」という反骨精神だと言われればそれはまぁ、そうかもしれない。
しかし、途中まで観ていてラストが予定調和でないなということは大体解る。松本人志なら同じ「壊す」でももっと華麗な形で壊してくれるんじゃないかと期待してしまったのだが、今回の落とし所は私の好みではなかった。あれは彼じゃなくてもできる「壊し方」だったかも。
だから観終わった後、それまで「いいな」と思っていた余韻も一気に冷めてしまい、「何かイマイチだったな」という印象だけが残ってしまった。
最後の落とし所で作品自体が一気に輝いたり色あせたりする。映画や芝居を作る人間ならば、その恐ろしさは骨の髄まで身にしみていることだろう。今思い返せばこの作品でも「あのシーンはよかったな」とか「いい台詞があった」とか結構あるのだが、そんな優しい観客は一握りもいないのではないか?大抵の人は「つまらない」と思ったら、もうその印象以外は思い出してくれないだろう…。
どうせなら最後の最後で「ご破算」にしないで、行き着くところまであのまま突っ走ってもらいたかった…というのが素直な感想かな。
でも、次回があったらまた期待して観に行くと思う。

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