まだ目のピントが合わず長時間集中してTVモニターを観ると疲れるのだが、それでも性懲りもなくまた映画にチャレンジしてしまう。しかも巨匠ブニュエル監督の作品である。とにかく有機質というか、高蛋白低カロリー(?)の映画が観たい!鈍っている頭に刺激を与えたいのだ。
ブニュエル監督の作品は大好きでスペイン時代、メキシコ時代、フランス時代の作品も殆ど観たがこの作品はたまたま未観だった。
「自由よ!くたばれ!」
ナポレオン軍によって虐殺されるスペイン人たちの叫びから始まるこの映画は、「自由」というものを徹底的に笑い飛ばした「ブニュエルの海寄り切り」といった感じのお馬鹿コント集である。
日常生活のちょっとした常識がずれているだけで限りないギャップを産むという、シュール系お笑いの手法は松本人志意向の日本のお笑い感覚にもかなり近いので、巨匠ブニュエルといって肩肘張らなくても充分笑えて楽しめる映画であると思う。
例えば、セレブな紳士淑女が豪華な屋敷の昼食会に招かれる。すると食堂には椅子の代わりに便器が並んでいる。紳士淑女たちはズボンを降ろして便器に座り、ウンチをしながら食卓を囲んでセレブな談笑をするのだ。
すると一人の紳士が「失礼」と言って席を立ち、トイレに入る。トイレの個室には立派な椅子があってそこに座ると壁から、ステーキが出てきて食事ができるようになっている。つまり、ウンチと食事の立場がまったく逆転してしまっているというギャグだ。
こんなバカコントをやる方も撮る方も真剣にやってしまうのが巨匠ブニュエル映画の醍醐味である。「銀河」という映画では同じような手法で保守的なカソリックを徹底的に馬鹿にしまくった(都合が悪くなるとビンタしてくる枢機卿がツボだった)。この「自由の幻想」では反対に「自由」を絶対視するフランスやアメリカなどのリベラルに偏り過ぎた近代社会を糾弾しているように見える。
やはり、頭にガツンと来る映画で大いに満足!
ちなみにブニュエル作品の中で私のフェイバリットは、恐らく至上初めてストーカー問題を取り上げたメキシコ時代の「エル」と、純真な少女が愛のない結婚のため血も涙もない毒婦に変わって行く様を美しくも残酷に描いたフランス時代の「哀しみのトリスターナ」である。

0