8月14日(火)午後
昨日小岩井農場を訪れた時、売店でカブト虫を売っていた。
私が子供の頃は近所の神社などでまだカブト虫やクワガタが取れた。懐かしさに駆られて見ていると店主が、「お子さんのお土産にどうですか?」
私にはまだ子供はいないが、明後日ちょうど青森の知り合いの新居を訪ねる予定があるので、そこの子供のお土産にしようと思い立った。
番いで入れたほうが子供ができるかもしれないからいいだろうと思ったが、店主曰く「番いで入れると寿命が短くなるよ。雄はやることやったらすぐ死んじゃうから。一匹だったらだいたい二週間くらい生きるのが、数日しかもたなくなっちゃうよ」ということだった。
だったら雄一匹だけにしようかなと言うと、「でも将来のことを考えるとねぇ…」と店主はなぜか虫の先行きを心配し始めた。「どうだろう、雄二匹に雌一匹入れよう!」
値段はカゴ代込みで千円。東京だともっと高いだろう。
子供にあげるというので元気な奴を選んでもらった。背中にコブあるブンジ(カミさん命名)というのは特に獰猛で、三匹がカゴに入れられるとたちまちメスを廻る闘いに勝ち、嫌がるメスのポヨン(カミさん命名)を強引に押さえつけてさっそくやりまくっていた。尻尾からモノ凄い真っ赤な巨根がいきり立ってメスの尾っぽにブッ刺さっている。その凄まじい光景。メスはメチャクチャ嫌がってジタバタしている。競争に負けたジョン(カミさん命名)はせめて他の願望を満たすために、ひたすら餌のゼリーを貪っている。
カゴの中はもはや地獄絵図だった。
でも人間だってホモサピエンスだ文明だと気取っているが、生命である以上結局は同じことをしているのだ。東京の生活では中々実感できない、野生の業というものをカブト虫を飼うことによって実感した。自分は何のために生きているのかと人は悩むが、野性の中では何を置いても喧嘩して、食って、やる。それだけなのだ。人間とカブト虫の間にどれだけ違いがあるというのか。
カミさんはただでさえゴキ○リが嫌いな上に、そのような地獄絵図を見せられて「吐きそうだ」と言っていた。
しかし、旅が進むにつれて段々虫のことが気になり出した様子である。
ブンジとジョンがあまりにもケンカばかりするので、これじゃあお互いに長生きできないからもっと大きなカゴを買ってあげようよなどと提案してきたくらいである。
朝起きてもまず、「虫大丈夫かなぁ」と心配している。
見てみると三匹ともピクリとも動かない。こりゃ本当にケンカしすぎとやりすぎで、消耗して死んでしまったのではないか?
しかし、ホテルを出てると虫たちは再び元気に暴れ出した。
これは私の想像なのだが、ホテルの部屋はクーラーが効いているため、虫たちは冬眠状態になってしまったんではなかろうか?
出発する前に近所のデパートで、大き目のカゴが付いているカブト虫飼育セットを買った。こういうものを手にするとこの年になってもなぜかワクワクしてしまう。さっそく朝食を食べながら、カゴにマットを敷き、バイオウォーターを取り付けて、大鋸屑を敷き詰める。これでメスは土の中に潜って卵を産めるようになった。一連の作業をしていると近所の子供達が「虫だ虫だ」と言って寄ってきた。やはり皆虫が大好きなのだ。
しかし、このカゴは広いが平板なので、カブト虫はすぐにひっくり返ってしまって三匹とも車の中で半日くらいずっとジタバタしていた。
「二週間しか生きないのにその大多数を仰向けでジタバタして過したんじゃ可哀相ねぇ」とカミさん。今ではすっかり虫たちに情が移ってきている。
このままでもやはり消耗して死んでしまうだろうということで、男鹿半島を離れた後、道の駅で木の枝を沢山拾ってきて、カゴの中に入れてアスレチックを造った。するとようやく掴まる場所ができて、カゴの中の三匹の生活も安定したようである。

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