「1Q84」は出版不況と言われる現状の中前代未聞の部数を重ね、社会現象になりつつあるという。「ノルウェイの森」の映画化まであるらしい。う〜ん、観たくない。
ついでだから、もうひとつの村上作品について書いておこうと思う。
そもそも「1Q84」が発売される前、私はまだ「残月」の稽古をしていた頃だが、たまたま春樹っつぁんの「ダンスダンスダンス」を手にとって読んでいた。
「ダンスダンスダンス」も初めて読んだのは高校の時、村上作品の中では大ヒット作「ノルウェイの森」と力作「ねじ巻き鳥クロニクル」に挟まれてあまり目立たない作品なのではないだろうか?
しかし、何気なく読み返してみるとこの小説は現在の私の心境に恐ろしいほどシンクロしてしまった。
なぜならこの小説は「34歳になってふと人生を振り返った男」の物語だからだ。
別に意識して手に取ったわけじゃない。センチメンタルな青春時代も遠くなり、もう春樹っつぁんの小説を読み返すこともないだろうとさえ考えていた。しかし、「残月」の稽古でストレスが溜まっていたので、現実逃避で何気なく読んでみたのだ(新しく本を買う経済的余裕もなかったし、新しい物を一から読む精神的余裕もなかった)。
ところが蓋を開けてみてどっこい、34歳を期に自分が失いつつある「心の震え」を取り戻すべく、悪あがきをする男が描かれていたのだ。
「世界の終わり〜」ほどの完成度もないし、「ねじ巻き鳥〜」ほどセンセイショナルでもない。ストーリーもくっきりしているわけじゃない。大黒様ならぬ「羊男」が縁を結び、出会った人々とつまらない冗談を言ってヒンシュクを買いつつ、細々と交流を暖めてゆく物語である。殺人事件に巻き込まれたりもする。しかし、34歳のこの男は他の小説の主人公のようにその解明に乗り出したりはしない。ただ、「羊男」が結ぶ運命という名の音楽に合わせてステップを踏んで踊るだけである。
34歳にして人生が固まってしまわない、そのために!
ああ、何て滑稽なんだろう!
…そして、私も34歳になったのだ。
34歳が、その後の人生のフレッシュor非フレッシュを別ける分岐点だということは何となく感じていた。春樹っつぁんは正にその痛いところをついてきたわけだ。
傍から観たら颯爽というわけには行かないのだろう。滑稽で、時にはつまらないギャグでヒンシュクを買うかもしれない。
でも、何とかフレッシュの部類に入れるようにやってみようと思う。それしかないじゃないか。
この小説の対立軸は主人公と「ワタヤノボル」や「ジョニーウォーカー」や「印を持つ羊」や「リトルピープル」などではなく、あくまで「老いてゆく自分自身」である。
そこが重要なのだ。
(ここでいうフレッシュというのはあくまで比喩的なものです。
決して「瑞々しい大人」になろうとしているわけではないので、誤解しないうように)

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