31という年齢は私にとって大変しんどかった。
この年を迎えたばかりのちょうど一年前はまだその実感はなかった。ブログを読み返してみても「30代は結構楽しい」なんて呑気なことを書いている。思ったほど20代とあまり変わらないじゃないかなんてハッキリ言って舐めていたのだ。直後自分の身にも周囲にも色々なことが立て続けに起こり、そんな希望的観測は見事に打ち砕かれた。
出口の見えない泥沼に嵌り、光を求めてジタバタ足掻いた31…その年も今日で終わろうとしている…。
最近はまた新たな壁にぶつかり、今後のことを悩んでいた…そんな時だった。
たまたま知り合いの芝居を観に行った。その芝居が面白かったか面白くなかったかはこの際あまり重要じゃない。芝居を観ながら私はまったく別のことをずっと考えていたからだ。以前からずっとやりたいと思っていた芝居の構想である。突然に湧いて降ってきたのだ。ひょっとしたら観に来た芝居の内容が引き金になったのかもしれないが、出てきたものはそれとはまったく似ていないものであった。身体の心がカっと熱くなるほど、その時の私はその芝居を創ることを欲していたのだ。私は知り合いの出ているシーンだけ真剣に観て、あとは殆ど頭の中でその芝居のことだけを考えていた。
終演後、私は知り合いの役者に挨拶をしようと思ってロビーで待っていた。すると偶然にたまたま観に来ていた別の知り合いの役者さんとばったり鉢合わせた。
私は一瞬「これは夢か?」と思った。その役者さんは私がさっきまで考えていた芝居の出演者としてずっと考えていた人だったからだ。
その役者さんのことはずっと前から素敵だなと思っていた。しかしその人はある有名な劇団に所属している役者さんなので、私達のような小さな劇団ではまだ手の届かない人だと思っていた。しかし、私はこれも何かの運命だと思い、帰りの地下鉄の中で思い切って打ち明けてみた。
私は今の芝居の最中、ずっとあなたに出演してほしいと思っていた芝居のことを考えていました。もし、それが実現することになったら、あなたに声を掛けてもいいですか?
するとその役者さんは「本を読んでみるよ」と言ってくれた。
それだけで充分だった。
その役者さんとはその後すぐ別れたのだが、私は何かふっ切れたように晴れ晴れとした気分になっていた。別にその役者さんがそう易々と誘いを受諾してくれると楽観したわけではない。ただその人に声をかけたということ自体が、何か見えない一歩を踏み出せたような気になったのだ。あくまで私の中でのことなのだが、この一年、光の差さぬ泥沼でもがいてきて、ようやく一瞬の光を見たように思った。
とにかく私の中で世に生まれることを欲している作品がまだまだある。それを実現させるために、私はまだまだもがき続けよう。たとえそこが泥沼であっても…。
代々木上原駅で地下鉄が地上に出ると空の色が少し変わって見えた。

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