オチャラケくんという道化師がいた。
彼はその名の通りオチャラケた性格でジョークを言ってはみんなを笑わせていたので、村の人気者だった。
そんな彼がとある国のお姫様に一目ぼれをしてしまった。寝ても覚めても考えることは姫と結婚することばかり。思い悩んだあげくオチャラケくんは友人のウナギネコ夫婦に相談する。
ウナギネコ夫は言った。
「そんなの簡単さ、得意のジョークで彼女を虜にすればいいんだ!」
するとウナギネコ婦人は、
「でもあなた。あの国の人たちは大変気難しいって話よ。彼のジョークが理解できるかしら?」
「それならばジョークがいかに素晴らしいものか、その国の人たちに教えてあげるといい。オチャラケくんならきっと彼らにオチャラケの素晴らしさを伝えられると思うよ」
さっそく、三人はお姫様の住む国へと旅立った。道中起こった様々な事件を面白おかしく脚色してネタを作った。お城に到着すると王様は留守だったがさっそく三人は王妃と姫の前でここまでの道中のネタをオチャラケを交えつつ披露した。
ところがである。
王妃も姫もクスリともしない。傍で見ていた家臣も侍女も兵隊も誰一人笑わない。いや、みんな一様に青ざめたような顔をしている。冷や汗を額から滴らせてる者もいる。オチャラケくんも何だか寒気がしてきた。あまりの異様な雰囲気に吐き気さえ込み上げてきた。
「この国の王様は…」と王妃は言った。「…大変オチャラケがお嫌いなのです。つい先日もあなたのようなオチャラケを王様の前で言った者がおりました。王様は大変お怒りになって、その物は両手両足の全ての爪を剥がされ全ての歯を引き抜かれ舌に五寸釘を3本打ちつけられました。そして「花もキレイでいるために土の中で努力している!」と言われて首から下を土の中に埋められてしまいました。食べる物も飲む物も与えられず七日後には全ての髪が白く染まり、さらに七日後にはそれも抜け落ちて十七日目にはカラカラに干からびて死にました。
あなたは大変面白い男だと聞いたので、もしかして王のオチャラケ嫌いを直すことができるのではないかと期待したのですが、まぁ浅はかだったわ」
「お願い、悪いから父が帰って来る前に帰ってちょうだい…」と姫も言われた。
ウナギネコ夫婦はそれでも必死にオチャラケくんをフォローしたが、当の本人は一足先に逃げ帰ってしまった。
オチャラケくんは悩んだ。
三日三晩飲まず食わずで悩み抜いた。
「…姫と結婚したい…でも婿に行ったらもう二度とオチャラケることが出来ない。俺はオチャラケができるからこそ今まで何の問題もなくやってこれた。恐らく俺からオチャラケを取ったら縮れ毛ぐらいしか残らないだろう。そんなんでこの先、生きて行けるだろうか?自信がない…ああ、でも姫と一緒にいたい…結婚したい…う〜ん!どうしたらいいんだ?…くるしぃよぉ…くるしいよぉ…」
オチャラケ一筋で生きてきた彼がここまで悩み苦しむのは初めてだった。
しかし、ふとおかしな考えが頭を過ぎった。
「…しかし、こんなに悩んでいる自分の姿をもし完全に客観的に観ることができたら…それはきっと俺が今までに言ったどんなジョークよりも可笑しいだろうな…」
今、この瞬間なら俺は王様を笑わせることができるだろう。その自信がある。でも…明日になったらきっとできないだろうな…。
オチャラケくんは自嘲気味に鼻を鳴らし、ベランダに出て煙草を吸った。
このお話はフィクションです。 おしまい。

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