前日は夜中の三時まで12月公演のスタッフ会議。
今日は昼から横浜にて岡部先生の稽古に参加し、出演者としてカミさんを紹介。
夜は高木先生のワークショップと殆どフル稼働してさらにオールナイトの映画を観に行くのだから大忙しだ。しかし、行かねばならない。奇形人間が私を呼んでいる。
池袋文芸座にて「石井輝男三回忌オールナイト」上映会をたまにじメンバーと観に行く。
もう3、4回目になるが「江戸川乱歩全集・恐怖奇形人間」は素敵だった。クライマックスの大花火のシーンではたまにじメンバーも涙を流して笑っていた。やはりあの素晴らしさは実際に観てみないと伝わらないだろう。
二本目の「直撃地獄拳2」は、「奇形〜」で客席も暖まっていたため爆笑の嵐。
三本目は「ポルノ時代劇・忘八武士道」。ここまで続けて観ると流石に客席にも疲労感が漂い始める。丹波哲郎主演のエログロサイケなこのサムライフィクション、「ポケモン」を観て目を回した人がこの映画を観たら恐らくショック死するんじゃないか?
それにしてもこの上映会を企画した人はセレクションが巧い。まず「奇形人間〜」で強烈に掴んでおいて、「地獄拳2」の軽いアクション・コメディで場を沸かせ、「忘八武士道」の色んな意味でハードな時代劇でマニアを唸らせる…そしていよいよトリである。
実は四本目の「明治・大正・昭和・猟奇女犯罪史」だけ、私は未観だった。
冒頭、女の変死体の解剖を始める検死官の男のナレーション。
「…まさか、自分の妻の死体を解剖する時が来ようとは…」
何と変死体は検死官の妻だった。
「…妻の胎内に見知らぬ男の精液が残留…妻を殺したのは一体誰なんだ!」
男は苦悶の表情を浮かべながら死体にメスを入れ、バリバリと皮を剥いで行く。
…おいおい!それは解剖じゃなくて解体だろ!
既に冒頭で大ボケかました主人公は、妻の死の謎を解き明かすため、犯人の手掛かりではなく何故か明治大正昭和の猟奇殺人事件の資料を調べ始める。
東洋閣事件、阿部定事件、小平義雄強姦殺人事件、高橋お伝事件など実録の事件を映像化。特に阿部定事件ではいきなり、「生きていた阿部定さん」というテロップが出て本人への直撃インタビューまで入っている(最初私はこんな映画にまさか本人は出ないだろうと思っていたが、後に本物だったことが判明)。さすがにインパクトはあったが、そこだけ映画ではなくワイドショーのようになっていて、さっきまで主役を演じていた吉田輝男が大真面目にインタビュアーを勤めているのがとにかく可笑しかった。
さらに強烈だったのは、異常殺人者小平義雄を演じた石井組の看板役者、小池朝雄氏の怪演である。石井監督はよっぽどこの役者が気に入っていたのだろう。
ただ、この小池朝雄さんという俳優は刑事コロンボの吹き替えとして有名な人なのである。だから、小平が取り調べ室で「女の首を絞めるときの快感はたまらねえ…」と笑みを浮かべながら自供する狂気のシーンでも、どうしてもコロンボが言っているように聴こえてしまうのだ。思わず「…ウチのカミさんも絞め殺したかったんですがね…」とか言ってくれないかなぁと変な期待までしてしまった。
そして、一通りの事件を調べ終えた後、再び検死官のナレーションが入る。
「…妻がなぜ死なねばならなかったのか…それは、誰にも解らない」
で、完。
え、90分もかけてただの見当違いだったの、この映画?本物の阿部定まで出してきて。
オールナイトの最後の最後で、ずっこけて上映会は終わった。
なるほど…四本目の大ラスに敢えて「ズッコケ」を持ってくるとは…。流石ここの企画者は石井映画の本質をよく掴んでいるようだ。
映画館を出るともう朝だった。若林さんは四本とも絶賛していて大興奮だったが、女の子たちはさすがにちょっと疲れたようだった。当たり前だ。
みんなはコーヒーを飲んで行くということだったが、私はこの後数時間寝てすぐに同じくたまにじメンバーのチヨさんの結婚パーティーに参加しなくてはならなかったので、一足先に帰った。
私にとっては疲労感はなく、あっという間の七時間で、これだけ飽きさせないパワフルな映画を様々なジャンルに渡って撮り続けた石井輝男監督は、もうちょっとセンスがあったら間違いなく日本を代表する映画の巨匠になっていただろうなと、改めてその偉大さを偲んだ。

0