「滝の拝」
「滝の拝」とその上に架かる橋
古座川を上って行くと月野瀬というところに「ぼたん荘温泉館」があり、とてもゆったりとした良い温泉場があります。さらにもう少し進むと古座川の支流になる小川(こがわ)という流れがあります。この流れに沿って山奥に入っていくと「滝の拝」という落差8メートルの白い砂岩からなる渓流の滝があります。鮎のシーズンになると村人が滝のところで釣り糸をたれて、引っ掛け釣りをしているニュースを何度か見たことがあります。それで、「滝の拝」という景勝地を知っていました。
橋の上から下の「滝の拝」を見る
白い砂岩の岩床には無数の穴があいており、浸食されて細くなった岩の間を小さな滝となって、流れ下っているのです。砂岩の肌を触ってみると比較的つるつるしているので、おそらく熱変成を受けているのだろうと思われました。
後日、地質図などで調べてみると、このあたりは
4千〜5千万年前に深い海で堆積した「牟婁層群」
1500万年から1700万年前に比較的浅い海で堆積した「熊野層群」
という二つの堆積地層に接する辺りにあり、
さらに熊野層群が地殻変動によって隆起して陸になったときに、岩石の割れ目に沿って噴出したマグマが固まってできた環状火成岩脈(リングダイク)と呼ばれる岩脈が弧を描くように東西に横切っています。
そして、これに少し遅れて噴出した火成岩があります。あの石英斑岩という火成岩でできた橋杭岩の流れで、南北にいく筋もの岩脈となって古座川流域を横切っています。これに伴って熱水やガスが堆積岩の割れ目に浸透して、それに沿う岩石が白くなるという変質の影響をあたえているようです。この影響は、果無山脈から大塔山の南まで南北に帯状に延びて「八丁涸漉(はっちょうこしか)変質帯」と呼ばれています。この地熱が和歌山県の温泉、例えば竜神、湯の峰、川湯などの温泉を産みだしているとも言われています。
変成作用を受けていっそう白くなった砂岩の岩床 浸食されて無数の穴があいている
「滝の拝」の砂岩の渓流は、熊野層群の堆積岩と思われますが、こうしたマグマが供給した熱水の変質作用を受けて白く輝いているうえに、浸食されて奇岩となり私たちの目を奪っているのです。自然を敬う気持ちから、この滝を神として拝んだことに由来して「滝の拝」と呼ばれているのでしょう。

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