ブンブクウニ
豆粒ぐらいの小さなものから10円玉を超える大きさのものまでの、かわいらしいウニの化石がよくでます。この白亜紀に多いのはブンブクチャマガ類で、私が手にしているのはブンブウニといわれています。
一月の末ごろだったか、理科室の手前に展示している岩石類を見て数人の四年生の男の子と話していると,そのうちの一人が、「ぼくも化石持っている、でもその名前は知らないよ」「お母さんの里は新宮で、高田というところに泊まりに行ってそこの川原で拾ったんだよ」と話してくれました。
「もしよければ持ってきてみせてほしい」と頼むと、あくる日、布にくるんで持ってきてくれました。カボチャぐらいの大きさだったので少し重そうでした。
四年生の坂上君が高田川で発見したブンブクウニの化石を含む石ころ
見ると「これ、ヒトデの化石とちがうかな?」と思いました。化石に浮き上がって見える模様が、まさに現在生きているヒトデの形にそっくりなのです。ただあちこち形が途切れています。子どもには「ヒトデではないかな」と伝えましたが、自信がないので「自然博物館の方に見てもらってくるから」と言って一日借りました。
「これはヒトデではないなー。ウニなんですよ。ブンブクウニと思われます。この部分に黒い点々が付いていますね。これは棘の跡なんですよ。ヒトデは、潜らないので化石になりにくいのです。ブンブクウニは底に潜って生きているので化石になりやすいのです。」「ブンブクウニは現在でも生きています。ちょうど展示していますから見てみましょう」といって館内に案内してくれて陳列棚に並べられているのを教えてくれました。それは鶏の卵ぐらいの大きさのものでまさにヒトデのような形の模様を持ったものでした。
ウニといえばあの棘の長いムラサキウニやバフンウニしか知らなかったので、このような底の泥や砂に潜って生きている現生のウニがいたなんて驚きでした。
産出した場所を紹介しますと、「あのあたりでは化石が出にくいところなんだけどなー」と不思議そうでした。というのは新宮などの地域は火成岩に覆われたところなのですから。
熊野地方に砂岩や泥岩が堆積した「熊野層群」という地層があります。そこに今から1400万年前に、地下からマグマが噴出しました。したがって熊野層群といわれる堆積岩の上に、「熊野酸性岩類」と呼ばれる火成岩が覆っているのです。那智の滝はその火成岩の「花こう斑岩」でできています。新宮の高田は那智の山や大雲取山のすぶ北東にあたり、そんな火成岩に覆われた地層から化石など出るはずがないのです。
帰ってから地質図をよく調べてみると、熊野酸性岩類のピンクに色分けされた広い地域の真ん中に、熊野層群のみどりに色分けされた地域が、小さい半月のような形で、まるで盆地のように存在したのです。火成岩にとり囲まれたこの高田の地は熊野層群という堆積岩の地であったのです。四年生の子が、新宮の高田の川原で拾ったというブンブクウニの化石(新生代、第三紀、中新世)は、火成岩にとり囲まれたこの狭い範囲の堆積岩の地から転がり出たにちがいありません。
「よくこの化石を見つけたね。すばらしいよ。きみの宝物として大切にしていきなよ」とほめてあげました。
彼のおかげで、湯浅の単に「ウニの化石」としか見ていなかった段階から「ブンブクウニ」まで知識を広げることができました。
ヒトデのように見えるが、実はブンブクウニでした。黒い点々のところは棘の跡です。

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