「ドランクモンキー/酔拳 DRUNKEN MASTER」で、
主人公のフェイホン(ジャッキー・チェン)が、
赤鼻の酔拳の達人ソウ(ユエン・シャオティエン)の
猛烈なシゴキから逃げる途中イム・ティッサムという
冷徹な殺し屋に完膚なきまでに叩きのめされ、
殺し屋の股をくぐらされるシーンがあります。
そのシーンの出典と見られる、
漢の高祖・劉邦に使え、天下統一に貢献した
韓信という将軍のお話。
韓信は、若い頃、ちゃんとした職にも就かず、
いつもブラブラしていたので、周りの人々から
すこぶる評判が悪かった。
ある日の事、普段から韓信をバカにしていた町の若者が、
韓信に絡んできた。
「オイオイ。でかい図体に剣などぶら下げやがって、
格好は一人前だが、肝っ玉の方はからきしだろ?」
大勢の人だかり出来てくると調子に乗って更に辱めた。
「オイ!その腰の剣がハッタリじゃなきゃ、
オレを刺してみろよ。それが怖ければオレ様の股をくぐれ!」
韓信はじっと若者を見つめていたが、やがて地べたに
這い蹲り、相手の股をくぐった。
その場に居合わせた見物人は、笑い転げ、
あざけりをこめて、韓信のことを股夫(こふ)
と呼んだ。
韓信は後に「国士無双」(国中に並ぶものなき人物)と
称されたほどの豪勇の士である。
その彼をもってすれば、若者の5人や10人を
なぎ倒すことなど、なんでもないことであったでしょう。
しかし、彼は一歩も二歩も退いて、あえて若者の股をくぐった。
股をくぐってみせることなど、
将来の大事の前には全くの小事に過ぎなかったからである。
第一、まかり間違ってケガでもしたら、
こんなバカバカしいことはないからである。
中国の代表的な兵法書である『孫子』は、
将たる者の条件として、「智」とともに
「勇」、すなわち勇気をあげている。
ただし、「勇」というと、ふつう日本人は
やたらに前進することを持って「勇」だと考えがちだが、
それはとんでもない誤解である。
情況利あらずと見れば一歩退くこともまた「勇」なのである。
恥は一時、志は一生と冷静に情況を判断した
韓信のまたくぐりは、勇気の見本といっていいでしょう。
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