友達に言われたら気になって夜も眠れない言葉。
「これ知ってるかもしれないけどさ、あ、知ってるんじゃ別に良いか。何でも無いよ。」
小説:トランシーバーと青い空B
外へ出る。眩しい―
今まで俺を覆っていた囲いが一気に無くなる。今目の前にあるのは、一面の草原。丘の上に木が一本立っている。風が心地良い。草の揺れる音が、心を穏やかにしていく。
斜面を登り、寝転がる。その隣に、その少女が座った。上には、一面の青い世界。そのまま吸い込まれていきそうな端の見えない空。太陽の光が、体中に広がっていく。このままこの草原の一部になって、風に流されるままに揺れていたい。そう思った。
俺には一つの疑問が浮かぶ。
「なんで俺に声が届いてるって分かったの?」
そしてそれをぶつけてみる。二人の周りを爽やかな風が吹き抜けた。草が揺れて光っている。少女は少し微笑むと、こう言った。
「それは、私もあの部屋の外に出たいと思っていたからだよ。」
望んでいれば叶うものなら、俺はもうとっくにここにいたはずだ。
「それじゃあ理屈にならないだろ。」
すると、彼女は更にこう続けた。
「いずれ分かることだけど、今は独り言だと思って聞いてもらっても良いかな。今、私と君が向かっている方向が同じだから、君は私とここにいる。そうして、君が私と同じ方向に向かって進んでいる限り、この世界は続くんだよ。もし、二人の進む道にズレができたら、ここはまた狭い独りきりの世界になっていく―」
さっぱり訳が分からなかった。ただ、俺はそのひと言ひと言を頭に刻んでいった。いずれ分かることだと自分でも思ったから。
しばらく経って、俺は声をかける。
「…とりあえず、どこか行こうか。」
「うん。そうだね。でも、一面草原だし何も無さそうだけど…」
「いや、きっとそんなことは無いと思うよ。自然は全部同じなわけが無いんだら。」
すると彼女は、嬉しそうににっこりと笑うと、立ち上がった。
それから、俺達は色々な所に行った。今まで見たことの無い、全てが始めての世界を満喫した。丘の上の木、丘のふもとにできた大きなくぼみ、土がむき出しになっている所に集まる蟻の行列、形を変え続ける雲―
そうして時は流れ、綺麗な夕焼けが俺達を照らし出した。俺は思った。こんな世界にずっといる事ができたなら―
そして、俺達は戻ってきた。最初に寝転がった、二人の出会いの場所に。ふと横を見ると、髪の毛を首の後ろ辺りで結んだその少女は、俺が朝寝転んでいた所に座って、夕日をぼーっと眺めていた。思わず見とれてしまうオレンジ色の空。こんな姿も切り取られたあの狭い世界では、どんな風になっているのか分からなかった。こんなに綺麗で温かい太陽も、ここにはあるんだ。
鼻をすする音が聞こえてもう一度彼女に目をやった。相変わらず日が沈んでいくのを見ていたが、その目尻からは、太陽の色に輝く涙がこぼれていた。
何故だろう、その時胸が苦しくなった。こんなに綺麗な空を見ているのに、少女の涙の理由が分かる気がした。それだけじゃない。その面影が、夕日と同じくらい綺麗だったから―

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