小説(おまけ):配達人B
練習は続く。これ以上上手くはなれないと気付いても、それから目を背け、ただひたすらに楽器に向かい続ける。他の組がどうとか、そういうことは一切考えず、自分達が出来得る最高の形まで、また、その形を決して崩さないように、全員が必死に悩み、工夫する。この作業を怠ってしまった者に、最後の達成感を味わう権利は無い。こんなに真剣な部活が他にあるのだろうかというくらい、一心不乱に練習する。この時期以外特に本気で活動するわけではないこの部活で、その傾向は特に顕著に表れる。それは、本番一週間前を迎えた今も変わらない。
「……完成だね。」
「うん!」
「ああ、良かった! 何とか間に合った!」
他のグループよりは大幅に遅れたものの、俺と小田さんもどうにか曲を仕上げることができた。
「後は、完璧にしていくだけだね。それじゃあ、今日はここまでにしようか。」
「あ、うん、そうだね。それじゃあ、また明日!」
帰り支度を済ませると、いつも通りに北田と学校を出る。北田と二人で狭い道を歩く。
「どうだ? タケのところは仕上がったか?」
「ああ。どうにか。これから一週間は忙しくなりそう。」
「そうか。俺のところはもう完璧になったから、少しは手伝ってやるよ。」
「いや、いいよ。二人で頑張りたいから。」
「なんだよ、気持ち悪いな。」
「うるせえよ!」
こんな気の抜けた会話を交わしながら――
――私、学園祭の発表終わったら、武君に気持ちを伝えようと思ってるんだ。
――え? 好美って、武君の事が好きだったんだー。
――うん。だから、しっかり自分の……
――ドン、という音の後、一人の高校生の命が、衝突事故によって失われた。それは、彼女を知る少数の者以外の人類にとっては、眼中にすら入らない小さな出来事であったのだが――

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