うわ、どうしようコレ…相当修正しなきゃちゃんと載せられないな…
小説:風薫る春J
翌日から胡桃の奮闘は始まったらしかった。最初の1週間は、
「駄目だ、2人しか返してくれないや」
と落ち込んでいたが、早いことにそれから20日ほど経った頃には、
「今日はほとんどみんな挨拶返してくれたよ!」
と、喜んで言っていた。どうやら、思った通りそんな喧嘩は求めていない人が大半のようだ。どうせ空気が読めないとか仲間じゃないとか言われるのを怖がって賛同しているということだろう。俺が住んでいた橋の下はあまり人が来ないだけあって、割とそういった悩み事の話をしに来る学生が多かった。嫌でも耳に入ってくるそんな会話を聞いているうちに、そんな大人数同士のいざこざでは必ず、平和主義者みたいな人も巻き込まれているものだということがよく分かっていた。学年をまたいでの喧嘩なら尚更そうで、他学年に付くなんていうのは、余程の変わり者だけに違いなかった。
それからまた少し経ったある日だった。
「これ、3年生の子達にも呼び掛けてみようかな」
胡桃がこんなことを言った。俺は、その時眠たくてあまり話をよく聞いていなかったから、
「ん? うーん、いいんじゃないかな」
と、曖昧な返事をしてしまった。そして、胡桃が学校に出て行った後、目が覚めてくるにつれて、自分が失敗したことに気付き始めた。3年生の子達って、皆に言う気か? だとしたらまずいぞ、ヤバいことしちゃったな……胡桃、大丈夫かな。
果たして、胡桃は帰ってきた時かなり落ち込んでいた。
「あーあ、悠ちゃんを怒らせちゃったみたい……『2年生に挨拶!? 何考えてんの?』だってさ」
俺は、溜め息をつきながら椅子に倒れこむ胡桃を慰めながら、心の中で頭を下げた。胡桃にとって同学年と生徒に嫌われるのは、相当な痛手のようだった。
「でも、2年生は大分表情もやわらかくなってきたし、向こうから挨拶もしてくれるようになったんだよ」
「しばらく根気よく続けるしかなさそうだな……それで、上手く他の3年生にもその波が伝わったら、皆で話し合うようにした方がよさそうだね」
俺はまた一番当たり障りのない事を言う。自分が言っていることを恥ずかしく感じたりもするが、妙案は思い浮かばなかった。
「うん。でも、大会があるからこんな喧嘩してちゃいけないんだよね。皆も分かってるはずなのに、なんで意地張ってるんだろう。最後の大会なのに……」
俺は、第三者として出してやれるアドバイスが見つからず、何も言うことができなかった。
「カズ君」
「ん?」
しばらくして、胡桃は決心したように言った。
「私、明日皆に言うよ。一回全員で話し合おうって。こんなんじゃ駄目だって分かってるはずだもん。3年生の方が意地張ってたら何にもならないって、分かってるはずだもん。カズ君にもこれ以上迷惑かけたくないし、試合にだって勝ちたいし。きっと大丈夫だよね」
正直言って、俺は自信が持てなった。だが、経験上こういう場合は大丈夫だろうと思った。困難困難というけれど、実際思っているより軽く済む場合がほとんどだという事を、無意識のうちに感じていたのかもしれない。
「うん、大丈夫だろ。俺はあんまり何もしてあげられなかったけど、応援してるから。頑張れよ」
それを聞くと胡桃は笑顔で、
「ありがとう。頑張るよ」
と言った。その後俺は胡桃と一緒に、どういう手はずで事を進めるか、話し合った。いつの間にか、自分が持っていた不安はどこかへ行ってしまった。

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