お久しぶりです。
最近ようやく家に帰ってから少し机に向かうようになってきました。
でも、そのお陰で本当に単調な日々になってきた気がします。
いや、気のせいかもね。学校では毎日が祭日みたいなもんだからなあ…
いや、それにしても学校にもシエスタの時間を設けてもらいたいものです。
眠りって幸せな営みなんだなと、最近強く思います。
さてさて、風薫る春をいい加減に片付けないとヤバイという事に気付きながらもどうにもできていないので、この5月くらいまでには仕上げようと思います。
小説:風薫る春K
中学生達にとって最後の夏は、いつの間にか始まっていた。あの翌日胡桃の提案で開かれた部集会で、胡桃が後輩皆に、自分達がした酷いことや冷淡だったことについて謝った。日頃の挨拶運である程度信頼を取り戻していた胡桃の謝罪によって、大半の後輩達は、元を正せば自分達が悪かったのだと3年生に謝ったのだそうだ。全ての原因を生み出した例の2年生は、胡桃の謝罪を嘲るように見ていたが、自分達の仲間が先輩達の方に戻っていく中自分だけ孤立するのが怖くなり、最後には涙ながらに自らの非礼を詫びたということだ。兎にも角にも、ひとまず上手く終結したこの一連の事件の結果、チームの団結力は一気に高まった。上級生と下級生の意思疎通が取れた女子バスケットボール部は、皆が全力で練習に励み、その実力を凄まじいまでの勢いで上げ、試合でも勝利を続けた。そしてその結果が、県大会優勝、関東大会への出場に繋がったのだろう。最後の大会で最高の結果、そして思い出を残すために、部活の特訓にはより熱がこもり、胡桃も家に帰るのがかなり遅い時刻になった。俺は、その時間を利用して勉強に取り組み、心の中では今年度の卒業生達と一緒に高校に入学しようと決めていた。お金は胡桃の親戚に貸してもらって、アルバイトでも何でもして返すつもりだ。胡桃から伝わってくる部活への熱意が、俺にも伝播してきたようで、前にも増して俺のその決意は強まっていた。
俺がしばらく寝転んでいると、扉の音に続いて胡桃が帰ってきた。
「おかえり」
「ただいま! 来週から関東だからしばらくいなくなるけど……カズ君にとっては少し楽になっていいかもね」
冗談交じりで胡桃が言う。俺は笑って、返事した。
「ああ、そうかもな。胡桃が帰ってくるまでに、もう少し頭良くなってるようにするさ」
「うんっ」
胡桃は笑顔でそう頷くと、用意してあった夕食を急いで平らげ、風呂場に走って行った。部活で疲れきって帰ってくる胡桃にとって、睡眠はかけがえの無い安堵と休息の時間だった。
胡桃が風呂から上がり布団に向かうと、俺は挨拶をしてまたソファーに体を倒した。守屋は「親戚のお兄さん」の葬儀でしばらく家には来られなかった。なんでも、突然父親を殺し、自分は駅で飛び降り自殺をしてしまったのだそうだ。家庭の事情もかなり厳しかったようで、父子家庭として一緒に暮らしていた父親の暴力が、その急な死の原因のようだった。俺はそれを聞いて、心から同情した。それと共に、昔一緒に遊んだという数少ない思い出を失ったような気持ちになって、悲しかった。それからというもの勉強が益々捗るようになったのも、その寂寥感からの逃避だったのかもしれない。俺はそれ以来、机に向かう時間がかなり長くなっていた。
一週間という期間は瞬く間に過ぎ、胡桃は夏の最後の大会で勝ち取った関東大会に向けて家を出ようとしていた。
「絶対優勝して来いよ」
俺がそう言って胡桃の肩を叩くと、胡桃は照れくさそうに微笑しながら、
「うん、任せといて」
と答えた。俺は胡桃が急にたくましくなったように思えて、少し驚いた。元々しっかりしてはいたが、最近リーダーシップのようなものが芽生えてきたのだろうか。顔は自信に満ちていた。
「よっしゃ、いってらっしゃい!」
「いってきます!」
胡桃を見送ると、俺は急に寂しい気がして、また机に向かった。徐々にコツをつかんできたような気になって、勉強は楽しめるものに変わりつつあった。平面図形にしても受動態の表現にしても、新鮮で、知らなかった世界に足を踏み出したような気持ちになれた。しばらくしてふと時計を見た時に、
(ああ、もうこんなに時間が過ぎたのか)
と思うのも、気持ちが良かった。
俺が、そんな気持ちの中に入ろうとしていた時、周りで精一杯に鳴いているセミの声に混じって、インターホンの音が聞こえた。戸を開けるとそこには、真っ黒に日焼けした守屋が立っていた。

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