セミ鯨の研究室だけは、ニュースレターの訳をさせてもらっている関係で、メールアドレスを知っていたので、今回ボストンに行く前に、会う約束をしていました。
ただ、ボストンにいる間私がメールを使えなかったことと、エイミーがその間に体調を崩したことで、連絡が取れなかったり行き違いになったりで、以前研究室のあったビルに行っても、もう水族館の名前は入ってないし、どうしたものかと思ってましたが、水族館に通い始めて4日目、やっと電話が通じました。
新しい研究室は、水族館のお客さんが利用するパーキングのあるビルの1階でした。
(なので、時々、車の出入りでがたがたと音がして、地震かとびっくり)
今は、直接展示に関係ある職員以外のオフィスはすべて、こちらに移っているようです。
入り口のブザーを押すと、17年経ったはずなのにこれっぽっちも変わってないエイミーが、出てきました。
久々の再会を喜んで、研究室へ。
一部屋でスコットとエイミー、ジャッキーの3人が座っていた昔と違い、なんと広くて明るい!
ここにたどり着くまで何度か引っ越しがあったそうですが、今や、スコットとエイミー、モニカはそれぞれ1人部屋です。
「すごいオフィス!」というと、スコットが「間違えて僕にくれたんだけど、もう渡さない」と、机に寝そべります。
(もちろん冗談です。彼は今やエドジャートン研究室長ですから!)
他の研究員にも、ちゃんと1区画ずつ仕切った机がありました。
今は、南東部の出産海域の調査シーズンで、会えた研究員は、旧知のスコットとエイミー、いつもニュースレターで名前だけは知っていたモニカ・ザニとギー・ヤンボールトの4人でした。
ついつい、昔と比べてしまうのですが、その昔、研究室の主な場所を占めていたのは、大量のセミ鯨の資料でした。
個体識別した各クジラの特徴や写真、観察履歴など、もちろんコンピュータにも入ってましたが、研究室の机が置いてあるところ以外は、ファイルばかり。
それと、スライドを見てカロシティーで個体識別するための、照明のついた机。
私がそこでボランティアをしていたのも、資料の整理やコンピュータへのインプットでした。
今は、どこの机も、真ん中にどーんとコンピュータが居座ってます。(当時は、コンピュータは研究室に1台きり)
エイミーがみせてくれたのは、フィルの開発したDIGITと呼ばれるセミ鯨のためのソフトで、これによって今は数の増えた他のセミ鯨調査機関やホエールウオッチング船、写真を投稿してくれる一般人などすべての関係者とデータを共有しています。
「前は、10時になるとみんなでおやつを買いにいって、お茶してたのにねえ」というと、スコットとエイミーは、そんな時代もあったなあという遠い目。
もう、この研究室にはそんな余裕は無さそうです。
研究協力機関が増えたうえ、保護に向けての船舶業界、漁業関係者や政府への働きかけなど、「いつも10くらいの仕事を同時進行させているような気がする」なんて、エイミーは言ってました。
今は、撮ったセミ鯨の写真も、デジタルで直接DIGITに取り込むのですが、ちょっと意地悪く、「スライド机で覗いていた頃とどっちがいい?」と聞くと、あら?言葉に詰まってるエイミー・・・。
セミ鯨というと、昔一緒に水族館のボイヤジャー号のホエールウォッチングで働いていたスコット(スコット・ランドリー、当時はナチュラリストでした)も、今は、コッド岬にあるPCCS(プロビンスタウン沿岸調査センター)で、漁網被害にあったセミ鯨の救出にあたっています。(うらやましい!)
彼にも事前に連絡したのですが、今はちょうど救出活動に忙しい時で会いに行けないとのこと、しかもボストン滞在中、スノーストームなどもあって、私のほうもコッド岬には行けずじまいで、電話だけになりました。
もう一人、やはりボイヤジャー号のナチュラリストだったリサも、PCCSでアザラシのプログラムを作っていますが、彼女と話している最中、「やっぱりボストンには行けないわ、たった今、スコットがクジラ救助要請の連絡を受けたから」という、なんともタイムリー(?)な話題が飛び込んできました。
ほんとは、PCCSにも一度、行ってみたかったのですが!
残念でした。
さて、水族館内にも、セミ鯨に関係するものがあります。
2階から3階にあがるスロープの頭上に浮いている、セミ鯨の骨格と、4階のメーン湾の展示にあるパネルです。
説明文には、クジラがほ乳類であること、その証拠に胸びれの骨の構造が私たちと似ていること、セミ鯨が長く捕鯨の対象になったため生息数が減少したこと、水族館で個体識別を行い各クジラの履歴を管理していること、捕鯨が行われたいない今でも船舶による交通事故や漁網による被害で数が増えないことと、それに対する水族館の努力が説明されています。
4階のパネル。セミ鯨が直面している船舶との交通事故や漁網の絡まりによる被害を紹介し、それに対し、航路の変更や、漁網の改善に取り組んできた水族館の努力を説明している。