当時、コールドマリンギャラリーのボスはマイク。
彼は私よりずっと若いけど結構気があって、「このアワビおいしそー!」と私が言うと、マイクが急いでアワビを隠すそぶりをするというように、二人でよくきつい冗談を言いあっていた。
しかし、マイクは、口は悪いが、根は優しい真面目人間だ。
まだ幼い妹と弟がいて、ある日、妹が病気になったので今日は早引けするからと断ってきたことがあったが、そんな時でさえ、一人ボランティア(=私)を残していくのが心残りなのか、帰り際になにやらじたばたしていた。
ははあん、帰りにくいんだな、と分かったので、「ほら早くかえっちまえ!(Go away!)」とつっけんどんに言うと、やっとマイクは、「悪いなあ」と言う感じをどこか表情に現しながら、にやっとして帰っていった。
マイクは私に負けず劣らず悪態をつくけど、こういうところに、どこまでもお気楽な私との差が出る。ほんと、根はいい奴と言うのが隠せないのがマイクの良いところだった。
こんな事もあった。
ある日、サンドランスという、シシャモの仲間がでっかい予備水槽一杯にやってきた。
私にとっては、サンドランスと言えば、一番に思い浮かぶのはボストン沖のザトウクジラのエサだ。
中には輸送で弱ったサンドランスもいる。ラッキ〜!
「このサンドランス、ホエールウォッチングでお客さんにクジラのエサを説明するのにくれないかなあ」
もちろん、マイクが「いいよ」なんて、快諾するわけはない。
だいたい、クジラ組とサカナ組は相容れないと言う暗黙の了解があるのに(らしい)、そんなこと聞く方がおかしいのだけど。
しかし、マイクの冷たいそぶりに反して、後日にちゃあんと、瓶詰めにされたホルマリン漬けのサンドランスが用意されているのだ。(私もそれを期待してたりする)
こんな関係が結構気に入ってて、コールドマリンは、居心地の良い水族館の中でも、特にお気に入りの場所だった。
でも、仕事は時々ハード。
いつもやらないと行けないのは、各水槽の水温チェックとガラスふき、展示と控えの水槽にいる動物たちのエサの準部とえさやりで、異常に気づいた時には、マイクに知らせる。
時に、新来サカナや病気のサカナだがいたりすると、確実に食べさせたり、消毒に気をつけたり気を使うが、慣れさえすれば大丈夫。
だが、時々やる水槽の掃除は、底に敷いてある砂を取り出して洗う作業がちょっと大変だった。
サイフォンで水槽から取り出した砂を、バケツに1杯ずつ潮水のでるホース(直径が7〜8cm)の場所に持っていき、ホースの水を砂の中にくぐらせながら、汚れを浮かせて流すのだが、ずっと中腰で、しかも何度となく繰り返さないと行けないので、腰が痛くなる。しかも、”コールドマリン”なんだから当たり前だが、海水は冷たい。
環境は冷たくとも、心はあったかく?
とにかく、コールドマリンで働くのは、楽しかった。
そして、日本へ帰る事が決まり、最後に挨拶に行った時のこと。
私はマイクに、タコの置物を記念に贈った。
その時、マイクが用意してくれてたもの・・・それは、偶然にも全く同じタコの置物。
・・ただし、私のよりひとまわり大きな奴。
やっぱり、マイクって口は悪いけど、私よりずっといい奴なのでした。
マイクにもらったタコの置物。
二人とも、コールドマリンと言えばタコでしょ、と考えたようで・・。
マイクの手に巻き付いているのはコールドマリンのアイドル、タコ。
タコは遊ぶのが大好き。
「写真撮っていい?」と聞くと、こういうポーズをしてくれた。