2月 14日 (水) 暴風
もう少しで夕陽が海面に着水する頃、
「へへ〜〜 ヒロシさんこれ〜〜」
と言ってご常連の彼女はカウンターに座った。 手に大きな包みを持っている。 なにやら華やかな感じのする包みだ。
『そうか! 今日はバレンタインだぞ! この娘は僕にその大きな包み、つまりチョコレートをくれようとわざわざ来てくれたんだ! いい娘だね〜 それにしても大きな包みだな〜 ま〜なんでも大きい方がいいよ。 僕への愛の大きさを表現しているんだね。 うしし〜〜』
「いろいろ考えたんだけどどっちにする?」
そう言ってその大きな包みの中から小さなチョコを取り出した。
『な〜んだ、全部くれるんじゃないんだ。 世の中うまくいかないな〜 残念!』
「ウイスキーの山崎が入ったチョコと、レンゲの蜂蜜の入ったやつ。 確か山崎のは去年あげたと思うのでこっちあげる」
「あ〜 ありがと。 いや、なんなら両方貰ってもいいよ! 両手で愛を受け止めます!!」
「あははは〜〜 今日ね〜 これから彼のところに行くの。 でもちょっとバスの時間が空いたんで寄ってみた。 ん〜〜 カレー食べていこうかな〜〜」
『なんだなんだ? 時間が空いたんで寄ったのか? もし時間がなかったらこのチョコは僕の口には入らなかったってことか! おお神よ! チョコは何処へ〜〜〜』
このあたりはバスが大体1時間に1本位しかない。 それを逃すと大変だ。余裕を持ってこうして喫茶店で時間をつぶした方が懸命だ。
彼女が待ってるバスには後40分ぐらいある。 カレーを食べた後チョコを二人で食べた。 レンゲの蜂蜜入りってとこが女の子らしくていい。
バレンタインデイってのはいい習慣かもしれない。 女の子が思いを寄せている男にチョコと一緒に気持ちを贈れる。 ちょっとかわいらしくロマンチックでもある。 又チョコってのがいいな! 室戸だからといって“干物”をあげても生臭いしな〜
バスが彼女を迎えに来る時間が近づいたのだろう。 しきりに携帯の時計を気にしてる。
「遅れたらいかんのでもう行きます。」
バスはほとんど必ず5分や10分は遅れる。 少しでも早く彼の元へ行きたいのだろう。 彼女は早々とバス停へと席を立った。 幸いバス停は目の前なので店からバスが来たかどうかは良く分かる。
室戸の夜は自然に逆らわず暗い。 7時前でもう真っ暗だ。 今日、外は風も強くそして寒い。 なのに短めのスカートがいじらしい。
墨一色の闇の中を一筋の明かりがやってきた。 それは彼女を照らしそして静かに止まった。 彼の元へ向かうバスはあと数十分で彼女を送り届けるだろう。
“セント バレンタインズデイ”
若き二人に良き今宵でありますように・・・

0