3月 28日(水) 晴れ
仕事が終わって夜9時半、私の両親が真理子を迎えに来た。 真理子は今晩、私の実家に泊まる。 明日の早朝に母とバスに乗る為だ。 そのバスは朝3時過ぎに数十人を乗せて一路、“甲子園”に向かう。
室戸高校が強豪“報徳”を破った為に2回戦が発生したのだ。 室戸市民、いや、高知県民80余万の人口のうちはて?、何人が報徳を下すと予想しただろう? せいぜい、
「完封じゃなかったらいいな〜」
「相手の攻撃が終わらないんじゃないかな〜」
なんて、私もその一人だった。
「ま〜 遠足気分で楽しませて頂こう」
何と失礼な!!
先の試合が始まった時、完全に遠足気分は消えうせて特大のメガホンを口に押し付けて喉から声帯が飛び出す程
「ガッドバゼ〜〜〜〜!!!! モリザワ〜〜〜〜!!!!!」
応援席丸ごと“突撃”状態だった。
我が選手達は大金星を手にした。 彼らの素晴らしい姿を全身で浴びている内にすっかり“野球ファン”になっていた。
この素晴らしい感動を母にも見せてあげたい。 私はまぶたに張り付いている名場面をそのままに、母に電話をした。
「おかやん! 良かったで〜〜〜 ホンマ感動した! 今度29日やけんど行ってみんかえ〜?」
しかし母はたぶん
「良かったやろう? でもえいわ あんたら〜行ってき〜」
と、言うであろうと思った。 だが受話器の向こうでは意外にも
「ホンマに良かったね〜 テレビで見よっても凄かったね〜 あんたら〜次ぎ行くが〜 ほんならあたしも行ってみよかね〜」
思い出した。 母は野球が好きだったのだ。 台所に置いてあるテレビはシーズンになると良くプロ野球が映っている。 すぐ横のリビングのテレビでは父が別の番組を見ている。 父は私と同じでスポーツにはほとんど興味を持たない。
もう随分前になるが母が野球を見ているのを見て母にこんな事を言ったのを覚えている。
「へ〜 野球好きなん? 真理子も野球好きやで。 巨人の中畑が好きで後援会にも入ってるぞ。 しかも中、高とソフト部やって、スコアも付けれる程や! 」
真理子は野球に詳しい。 スポーツに疎い私と結婚してからほとんど野球は見なくなったが今でも中畑の後援会の案内状なんかはちゃんと来る。
“そうだ!! おれは今度は店を休まないで開けたいと思ってるけど、真理子と母とで行ってもらおう。 二人とも野球好きだし、しかもあいつは野球に詳しいし丁度良いかも!”
真理子も母も喜んでそうする事にした。 父も大賛成だ。
明日の第二試合が我が室高の出番だ。 天気も上々だろう。 甲子園はとても美しい芝を持つ。 その中で室高の球児達が白球を懸命に追いかける。 きっと素晴らしい光景になるに違いない。
現地ではご常連の女の子とも会う筈だ。 みんなで楽しく盛り上がって、母もたまには大声を上げたらいいと思う。
「ガンバレ! ガンバレ! 室高!!!」
その光景が楽しみだ。 私と父はそれぞれ室戸から声援を送ろう。
そろそろバスは出発する頃だろう。

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