4月 26日 (木) 晴れ
「え〜と どの辺だったかな? もう少しだったと思うけど・・・」
「あっ、 あそこじゃない? あそこよ、ほら!・・・」
左手にちり取りを右手に少し柄の短い箒を持って奥さんが終わり支度の掃除をしていた。
「どうも! こんにちは。すいません、終わり間際に」
「あら! シットロトさん。 今日はお休み? あっ 火曜日か〜 ま〜どうぞ入って下さい」
「いやいや、今日北川村温泉に行ったんですけど家族風呂がすでに予約が入っていて入れんかったんでついでに山越えして来ました。 これどうぞ温泉で見つけました。」
ヨモギ羊羹。 売店には地元の素材を使ったいろんな物があった。 その中でなんとなく惹かれる存在の物がこの羊羹だった。 まずパッケージが良い。 レトロな感じが出でいていかにも田舎風だ。 裏を見ても材料も良さそうだ。 地元のヨモギを使い無添加で手作りと書いている。 美味そうだ。 お二人の顔が浮かんだ。
「あ〜 どうも。 今日は休みですか? は〜北川村温泉ですか?・・・」
「そう、でも入れんかったけどね。 またそのうち行きます。 ところでこないだの選挙、大変やったでしょう? ね〜 人いっぱいやったんやないですか?」
「も〜大変でした。 騒々しくて〜・・・」
原発の核廃棄物最終処分場誘致の是非を問う町長選挙が先日行われた。 過疎に悩む町の将来を掛けての一大選択、大選挙だった。 推進派の人に入れるか、反対派の人に入れるかで町も二分されたらしい。 近所でも意見の違う人もいたであろうし、職場でもそうだろう。 中には家族でも違う人もあったかも知れない。 それらのことは全国の人達もニュースを通じて目に耳にしたと思う。
東洋町に限らずの事だが今、田舎はお金がないのだ。 自助努力、そんなレベルでは全くない。 最終処分場として交付金を貰い、それで公共事業、公共サービスを図ろうとした。 分からないでもないが。
「でもま〜終わって良かったですね〜 処分場は中止になるでしょうね。 これで。 だいぶ何かと喧しかったでしょうし。」
「え〜 でも又静かになりました。 」
町はそんな大変な選挙があった事が嘘の様に平静を取り戻していた。 ほんの数日前まであった推進派、反対派のそれぞれの檄の飛ばしあい、そしてそれに群がる報道陣。 皆姿を消した。 通りを歩く人もいない。 この間までたくさん人がいて妙に賑わっていたのに急にいつもの静かさに戻ると過疎の現実が目の前に立ちはだかっている事を思い出させてしまうのではないか。
田舎には美しい山がありきれいな川がある。 美味しい物もたくさん獲れる。 しかしお金はない。 都会はその逆だ。 田舎の都合、都会の都合なかなか難しい問題だ。 一つ言える事は国の政策が間違っている事だ。 処分の仕様がない史上最悪のごみが出るのを分かっていて原発を推進してきた事だ。 実際にごみが出来てしまった以上どうにかしなくてはいけないのだが、一番恩恵を受けているところが引き受けるのが人道ではないか。 貧しくて腹が減っている者はついとんでもない物でも口にしようとする。 国はそれを待っていたのか。 私は原発の事を全く知らない。 これを機にその類の本でも読んでみようかと思う。 本当に原発は必要なのかと。
コハラを聴きながら室戸に向けて海沿いの国道を走る。 夕方の東洋町の海は少し風があり黒い岩に白いしぶきが上がっていた。

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