5月 23日 (水) 晴れ
“武満徹”と言う名前をご存知だろうか。 1996年に亡くなった日本を代表するクラシックの作曲家だ。 先ごろNHKの“知るを楽しむ”と言う番組でも取り上げられるぐらい彼の作品は全く他の追随を許さない超個性的な現代曲が多い。 どんな曲か? 聞いてみたい人もいるだろう。 では彼の初期の代表曲
“弦楽のためのレクイエム”を
文字で表現しよう。
弦が静かに鳴りだした。 しかしよくある軽やかとか爽やか、また厳かと言うような雰囲気ではない。 何か息が詰まりそうな位重苦しい。
イメージしてみよう。
“もう3日も何も食べていない。 ここは何処か。 歩き疲れて意識が朦朧としてきた。 どうやら森の中に紛れ込んだようだ。 あたりは鬱蒼として昼間だと言うのに光はここまで届いて来ない。 さっきから聞き慣れぬ鳥の声がして気味が悪い。 恐怖と不安が折り重なる。 ふらふらと彷徨っているうちに湿った苔に足をすくわれ転倒してしまった。 が、しかし起き上がる気力はもはや残っていない。 這いつくばるようにして近くの大きな木の根元までたどり着いた。
一体、何故ここに居るんだろう。 どうして一人なのか。 さっきまで居た友は何処に行ってしまったのか。 遠のく意識の中で懸命に記憶を辿ってみたが疲労と絶望に押し潰されるように寝入りこんでしまった。
どのくらい時間がたったのだろう、あたりは完全に闇が支配していた。 頭上の大木たちがざわざわ騒ぐ。 夜の森を走る冷たい風が私の身体も冷たくしようとしていた。
ま〜〜〜〜こんな感じだろうか。 氏の作品の中にはとても聴きやすく親しみやすい曲もあるが、大体は予断を許さないぐらい緊張度が高い曲が多い。
そんな作品が好きな私は氏の本、CDを“F卓”の後ろのテーブルに飾っている。
しかし普段BGMはそんなのを掛けてはいない。 間違ってそれを掛けたらえらい事だ。 お客さんは食べていたカレーを喉に詰まらせ、飲もうとしたアイスティーも床に落としてしまうに違いない。 そうなったら大変なのでBGMは癒し系のジャズ・ソロピアノを流している。
今日、よく来てくれるデイサービスに勤めている女の子が“マサラ チャイ”を飲みながら、
「へ〜 武満徹? このCD良いね! なんか落ち着いていて聴きやすい〜 おばあちゃんら〜に聞かせてあげたい〜」
まっ、まさか??? はは〜ん 今流れているBGMが“武満徹”と思って言っているのだね? 面白いじゃあ〜りませんか。 カウンターへいらっしゃい。 武満徹を聞かせてあげるよ。
彼女らは導かれるままカウンターに座った。 例のCDをセットしてボリュームを上げた。 幸い貸切状態なので遠慮なく味わって頂こう。 ムフフ〜〜〜
「・・・・・え〜〜〜〜〜、うわ〜〜〜 、こわ〜〜〜〜い〜〜〜」
「どう? これ? いいでしょ? 武満徹。 僕は大好き! でもおばあちゃんには聞かせないほうが良いと思うよ!」
「・・・・・・ほんと〜 こんなん聞かせたらいかんわ〜〜」
その通り! これを聞かせたら
“おばあちゃんら〜 生きる力を失うで〜〜”
てな訳で普段BGMに掛けているジャズのCDを貸してあげた。 これでおばあちゃんら〜も大喜び!!
武満徹はほんとに素晴らしい作品を数多く残して11年前に旅立った。 確かに“こわ〜い”曲が多いがよく聴いてみると彼の曲ほど“映像”が見える曲は少ない。 事実映画音楽の為によく作曲された。 その“こわ〜い”と思う気持ちを少し変えてみると違う気持ちが顔を出してくる。 時代劇のイメージだ。 実にこれが嵌る。 アドリブで台詞を入れてみると良い。 結構一人で盛り上がれる。 皆もやってみよう。
念のため
“たけみつ とおる” であって
“たけ まんてつ”ではありませんぞ。
聞いてみたい方、カウンターまでどうぞ。

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