2005/5/5

ブラックバスの天敵?  ブラックバスと環境問題
 
先日、久しぶりに大網白里町の「小中池」に散歩に行った。
(釣りに行ったのではないので念の為。釣り禁止です。)



ここは、背後の森から染み出す湧き水をせき止めて作った灌漑用の貯水池。
房総の他の野池と同じように、かつて何者かの手によってブラックバスが放流され、一時は池中ブラックバスだらけになっていた。
その後、公園として整備され釣りは禁止されたが、春に湖岸の遊歩道を散歩していると、良型のバスがあちこちでスポーニング(産卵行動)しているのが観察できた。
「うお〜!あれ釣りてえ!」
と、よく地団太を踏んだものである。

ところが、数年ぶりに訪れた小中池の様子は、以前とはがらりと変わっていた。
かつてあれほどいたバスの姿は一匹も見られず、かわって悠々と泳いでいるのは、赤や金色の巨大な錦鯉の群れ。



もう、池中が錦鯉だらけである。
公園整備の際に放流されたものの子孫が増えたのだろう。
人の姿を見ると、餌をもらおうと足元にいっせいに寄ってくる。
いまや、この池の生態系の頂点は、この巨鯉たちだ。
鯉のほかにも、ゆうに40センチはあろうかという巨大なヘラブナが群れをなして泳いでいる。
ヘラ師が見たら垂涎物だ。(でも釣りは禁止(笑)。)

鯉やヘラブナが増えたことと、バスが姿を消したことには何か関係があるのだろうか。
私は、あると思う。

鯉やフナは、産卵する際、他の魚から卵や孵化した稚魚を守るために、岸辺の浅瀬に生えた葦などの茂みの奥に入り込んで行って(乗っ込んで)、そこで卵を産む。
一方、ブラックバスは水通しの良い開けた浅場に産卵床を作る。メスが産んだ卵をオスが守る習性があり、他の魚が近づいてきたときはオスが威嚇して追い払う。

しかし、バスが産卵床を作る浅場は、同時に鯉たちの餌場でもある。
バスの2倍以上の巨体の鯉が数十匹で群れをなしてやってきたら、おそらくひとたまりもない。
あっというまに卵は食べ尽くされてしまうのではないか。
天敵が居ないといわれるブラックバスであるが、それは成魚を襲う他の生き物が(人間以外に)居ないということであって、卵や稚魚は別であろう。
日本の在来魚が十分な勢力を保っている水域では、ブラックバスはその産卵形態から、実は相対的に弱い魚なのではないだろうか。

そう考えてみると、琵琶湖や霞ヶ浦などでバスが増え、在来魚が減っているというのは実は順番が逆で、まず水質の悪化や水辺環境の破壊(魚の産卵場所となる湖岸の葦原の消失など)で在来魚の勢力が弱まり、そこに出来た生態系の「隙間」にバスが適応して一気に繁殖したと理解するのが正解なのではないか。
なにしろ、他の魚は産卵することができないコンクリートの傾斜護岸の浅場でも、バスはしっかり産卵し、繁殖することができるのだ。

バスを減らし在来魚を増やそうとするなら、まずは湖岸の開発行為をストップして本来の水辺環境(葦原など)を回復させるとともに、周辺の下水道整備率の向上など水質改善のための抜本的な対策を講じることが、遠回りのようでいて実は近道なのかもしれない。



勝ち誇ったように湖上を悠々と泳ぐ鯉のぼり。
バスやギルをてっとり早く駆除しようとするなら、この池のように大量の鯉やヘラブナを放流してみるのも、乱暴ではあるが一つの有効な方法かもしれない。
魚たちの勢力図は、数年のうちに塗り変わってしまうだろう。

でも、ひとつだけ忘れてはいけないことがある。
錦鯉も、ヘラブナも、もともとこの池には居るはずのない「外来魚」だということ。
他の魚を駆逐する十分な力を持った外来魚。
ブラックバスと大差はないかもしれない。

  
  

2005/2/28

「魔魚狩り」〜特定外来生物法の真実〜  ブラックバスと環境問題

水口憲哉氏著「魔魚狩り」(フライの雑誌社)

東京海洋大学教授であり、環境省特定外来生物諮問委員でもある著書が、ブラックバス問題の真実を「内側から」鋭く指摘する。
私なりの理解と解釈をまじえて簡単に解説すれば、以下の通り。

(1)わが国の在来魚が減少した最も重要な要因は、開発事業、公共工事、乱獲、水質汚染等により、在来魚の生息・繁殖に必要な環境が破壊されたことにある。
(2)環境省の行った調査でも、ブラックバス・ブルーギルの移入により在来魚がどのような影響を受けたかという研究成果はなく、被害の実態は証明されていない。
(3)にもかかわらず、ブラックバス・ブルーギルがやり玉にあげられ、悪者扱いされる背景には次のようなことがある。
@内水面漁業の厳しい経営状況
A生態系・環境保護が「絶対正義」視されされがちな昨今の風潮に便乗した、あるいは誤解に基づく各種団体、メディア、ジャーナリズムのプロパガンダ
Bそして、生態系・環境破壊に係る責任問題を曖昧にしておきたい政・官・業・御用学者の事情


長良川のサツキマス、白保のサンゴ、諫早湾のムツゴロウなどは、加害者が「開発事業」「公共工事」であることが明白であるが、日本中でメダカやタナゴなどの在来魚が減少している原因については、これを具体的に特定することは難しい。
また、その原因と責任の所在を具体的に追及されると、国・地方公共団体や建設業界、政治家、環境アセスメントを行った学識経験者などにとって困った展開にもなりかねない。

そこへ、都合よく「ブラックバス」が通りかかった。
魚食性の魚。獰猛な顔つきをして、体もでかい。いかにも「悪そう」である。
それに、こいつは見慣れない「よそ者」だ。
全てこいつが悪いことにすれば、ムラ社会は傷つかない。
スティーブン・キングの「グリーン・マイル」に登場するジョン・コーフィが受けた仕打ちを連想してしまうのは私だけだろうか。

こうして、平成の「魔女狩り」が始まった。
商業主義のジャーナリズムが、「魔女狩り」を積極的に煽る。
コメンテーターの一方的な意見を、善良な一般の視聴者・読者に向かって垂れ流す。
真のA級戦犯たちの思うつぼだ。

この問題を「環境保護」VS「釣り業界」の構図だと考えてしまうと、本質を見失う。
「政・官・業・御用学者」VS「一般市民」の構図でとらえてみれば、また違った問題が見えてくると思う。


(誤解のないように付記するが、筆者は決して本書においてブラックバスを擁護しているわけではない。
ブラックバスは、本来、コントロール不能な状態で日本国内に存在してはいけない魚である。筆者はそう思っている筈だし、私もそう思う。
一部のバサー達は、筆者の著書をバス擁護の援護射撃と受け止めているようであるが、それはおそらく間違いだ。
筆者が本書で一番言いたかったのは、「木を見て森を見ず」の不毛な議論を繰り返して問題の本質を見誤ってはならない、というもっとも基本的なことなのではないだろうか。)


参考: http://d.hatena.ne.jp/heizoheizo/20050201

  

2004/8/8

呉越同舟の「特定外来生物被害防止法」  ブラックバスと環境問題
  
「特定外来生物被害防止基本方針(案)」に関するパブリックコメントが昨日締め切られた。(ちなみに私の意見は先般掲載した記事の通り。)

そもそもこの法律自体、環境省と農水省の共管となっているところに無理があると思っていた。
外来魚の拡散を本気で「防止」しようとすれば、鯉ヘルペス対策と同じように、汚染水域(外来魚が居るってことね)からの種苗・成魚の搬出規制を全国規模で行うべきだ、という議論が出てしかるべきである。
琵琶湖や霞ヶ浦産種苗の放流事業は、全量検査で安全性が確認されない限り禁止。全国の内水面漁業に与えるインパクトははかりしれない。
水産業を振興すべき立場の農水省が首を縦に振るはずが無いではないか。いったいどうするつもりだったのか。

ところが、「特定外来生物被害防止基本方針(案)」を読んでみて、納得した。
要するに、ブラックバスやブルーギルなどの外来魚に関する限り、事実上の抜け道が用意されている法律なのだ。
曰く、「意図せずして、物資等に紛れて移入される特定外来生物(=「非意図的移入」)は本法の規制対象ではない」。
これはいったい、どういうことなのか。
明確な移入の意図がない限り、法には抵触しないということなのか。
それとも、「未必の故意」があれば違法ということになるのか。

答えは、おそらく前者であろう。
仮に後者だったとした場合、外部から完全に隔離された養殖施設で生産された種苗以外は放流できなくなってしまい、養殖漁業に大きな混乱をきたしてしまう。
現実的にもありえない。

結果、琵琶湖や霞ヶ浦などの水域で生産された種苗・成魚の放流事業については、事実上何も規制されないということになる。
船舶のバラスト水に入ってくる海洋生物が野放しなのと同じ扱いである。
これでは、「石神井公園の池に売れ残りのカミツキガメを放流したペット店店主42歳」くらいしか取り締まれない。

それでは、この法律は、こと外来魚問題に関する限り大して意味が無いのかというと、決してそういうことではない。
この法律制定によって、有害生物の駆除事業を、国、地方公共団体等が主体となって、つまり公共事業として予算措置をとって進めることの法的裏付けが与えられるのである。
予算が付けば、それなりの規模の対策事業も可能になる。
本来、根本的な部分で鋭く対立するはずの農水省と環境省が、「漁業被害の原因となっている外来魚の駆除」という点で表面的に利害の一致をみて、内部的に抱える矛盾にはあえて目をつぶってとりあえず走り出した、ということなのかもしれない。

しかし、最も基本的な問題について法が規制対象外としたおかげで、本法に基づく対策事業の実効性確保も大変難しいものになってしまったのではないだろうか。
「水道の蛇口を開いたまま、床にこぼれた水をせっせとモップでふき取る」ようなことにならないことを祈りたい。


<参考資料>
「特定外来生物被害防止基本方針(案)」
http://www.env.go.jp/press/press.php3?serial=5086

日本釣振興会に寄せられた釣り人の意見
http://www.jsafishing.or.jp/fishing/fishing_12.html

  

2004/8/5

バス害魚論について思うこと(1)  ブラックバスと環境問題
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面白い本です。興味があればぜひ。

(注:この記事は2004年5月に書いたものです。)

先日、都内の某ショップでルアーを物色していたところ、店員さんと若いお客さんが、ブラックバス駆除問題に関する集会に参加した話をしているのが聞こえてきた。
最近、各地で盛り上がって(?)いるバス害魚論。
外来魚の「再放流」禁止条例を制定して駆除を推進している自治体もある。
本命、外道にかかわらず、釣った魚をその場でリリースするだけで条例違反になってしまうのだから、釣り人は堪らない。

釣り人ばかりを目の敵にする昨今の風潮は、正直いかがなものかと思う。
バスの駆除を訴える漁業関係者のコメントと自然保護団体のコメントを一緒くたに紹介するマスメディアも、事の本質を十分理解していない。両者は基本的に立場の異なるものだ。

参考までに、秋月岩魚氏の著書「ブラックバスがメダカを食う」(宝島社)を紹介する。
色々なことを考えさせられる、いい本である。
その言わんとするところは(私の理解したところでは)、ブラックバスは我が国の内水面の生態系を脅かす害魚である。そしてそのブラックバスを全国に拡散させた主犯は一部の心ないバスフィッシャーマンとバス釣り業界の関係者である。これは実に由々しき事態であり、速やかにバス釣りを規制するとともに、各地のバスを徹底的に駆除すべきである。というものである。
秋月氏の主張には、私もかなりの部分同意する。
ブラックバスは我が国本来の生態系を脅かす存在であり、害魚であり、本来そこにいるべきでない魚である。その点についてはまったくその通りだ。

しかし、氏の著書もそうだが、多くのバス害魚論者の論旨には瑕疵がある。
それは、バスが全国に拡散していった主たる原因が、釣り人や釣り業界関係者による密放流であると主張している点だ。
もしそうだとするならば、バス釣り規制さえ実施すれば状況は大きく改善されることになる。
しかし、本当にそうなのか?
もし本気でそう思っているとしたら、いささか呑気な議論だと言わざるを得ない。
外来魚の拡散問題に関する重要な論点がひとつ、決定的に欠落している。

既に20年以上も前のことだが、私の故郷の川では、琵琶湖固有のフィッシュイーターである「ハス」がよくルアーで釣れていた。
これは、琵琶湖産の稚鮎の放流に混じって、ハスの稚魚がその川に毎年放流されていたからである。このことは当時から既に周知の事実であった。

琵琶湖の稚鮎漁は、大阪に住んでいた頃何度か見たことがある。大きな四つ手網で、水面近くを群れをなして泳ぐ稚アユを獲る漁だ。その中に、ハスの稚魚が混じっていたのだ。
現在、琵琶湖には相当数のブラックバスやブルーギルが棲息している。
そして、琵琶湖産の稚アユは、今でも毎年かなりの量が全国の河川に放流されているという。
その中に、バスやギル(もちろんハスも)の稚魚は一切混じっていないと断言できるだろうか?

現時点において全国の河川に生息しているブラックバスには、漁業関係者による放流事業によって拡散したものも少なくないはずだと私は思っている。
琵琶湖にブラックバスやギルの生息が確認されて以降、琵琶湖産の稚魚の中に他の魚が混じっているリスクは漁業関係者の間では当然に認識されていたはずである。
少なくとも、一匹一匹、全部を検査しない限り、完全に防ぐことはできないはずだ。
(漁業関係者によるそのような談話を紹介した記事を読んだことがある。)
送り出す側も、受け入れる側も、そうしたリスクを認識しながら今まで放流事業を継続してきたのではないのか。

かつてイワナの聖地といわれた奥只見湖にも、今ではブラックバスが生息しており、釣り人による密放流によるものだとされている。
確かにその蓋然性はあるだろう。そうかもしれない。
しかし、釣り関係者による密放流が原因だと断定する以上は、まずその前提として、奥只見湖では他水域(湖などの開放水域)で生産された魚の種苗放流が一切行われていないという事実が必要である。
ワカサギなどを放流した事実はないということなのだろうか。
もしもバスが生息する湖などで生産された種苗の放流が過去に行われていたとしたら、話は全く違ってくる。

(2)へ続く


  

2004/8/5

バス害魚論について思うこと(2)  ブラックバスと環境問題
 
(1)より続く

わが国固有の生態系を脅かしているのは外来魚だけではない。
たとえば、イワナには地域ごとの個体変異があり、中国地方の山間部にはゴギと呼ばれる地域固有の特徴をもった岩魚がいるが、最近、放流もののイワナとの交雑が懸念されていると聞く。
日本各地で放流されているヘラブナなども、本来は、琵琶湖・淀川水系固有種だ。
日本中に居ていいわけがない。
海と繋がっていない山上湖にワカサギがいるというのも、そもそもおかしなことである。
こうした「生態系の乱れ」は、ブラックバスが現れる前から現に発生している。

生態系保護論者の多くは、ブラックバスを拡散させた犯人として、釣り人及び釣り業界を辛辣に攻撃する。
確かにそうした事実もあっただろう。
しかし、それがすべてではないはずだ。

私たち釣り人は、バスが入ってくるずっと以前から、種苗放流によって多くの外来魚(外国産の魚に限らず、本来その水域に生息しているはずのない魚は「外来魚」と言っていいだろう)が日本全国に拡散している事実を知っている。
決してごまかされたりはしない。
「すべての責任はお前たちにある」だって?
それは嘘だ!

外来魚の拡散を本気で食い止めようとするならば、意図的な密放流の規制だけでは足りないということは明らかである。
漁業者の手による拡散も同時に阻止しなければ効果がない。
それはすなわち、鯉ヘルペス対策と同じような措置(例えば汚染水域からの移動禁止、害魚混入の疑いのある種苗の廃棄処分等)を全国規模で行うということだ。
漁業者の経済的損失は甚大。現実的な措置とは正直思えない。
しかし、外来魚の拡散防止、ひいては固有の生態系の保護を本気で考えるのであれば、この議論を避けて通ることはできないはずだ。
それをせずに、バス釣り業界のみを悪者にして、リリース禁止条例を各地で成立させてみたところで、問題の本質的な解決にはならない。
単なるパフォーマンスだと言われても仕方ないのではないだろうか。

それでは現実的な対策として何ができるのか?
と訊かれても、実に情けないことだが私にもアイデアは無い。
ただ、ひとつだけはっきり言えることは、仮にバス釣りを全面禁止にしたとしてもバスの数は減らないだろうということ。
むしろ釣り人によるプレッシャーが減って、短期的にはバスの個体数は増えてしまうと思われる。

わが国固有の生態系を守らなければならないというのは、まったくそのとおりである。
しかし、昨今盛り上がっているブラックバス害魚論は、外来魚問題の一部のみに偏った議論に終始しているように思えて仕方がない。
釣りを愛するものとして、少々心配なのである。

 
              


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