2009/1/22
アメリカの大統領就任セレモニーというものをはじめてじっくりと見る。
ワシントンDCの都市軸を形成する広大な緑地に200万人の人々がひしめき合っている。すごい光景だ。ウッドストックやワイト島ライヴをはるかにこえた群集の凄まじい光景。歴代の大統領が仲良く居並んでいるのも不思議な感じがする。さすがに共和党は元気がない。ブッシュは潔い敗北の表情を表し、パパ・ブッシュは杖をついて足取りがおぼつかない。強面のチェイニーも何があったのか車椅子の上で老け込んでいる。民主党のカーターもすっかり好々爺になっている。
最後にオバマが登場し壇上を降りてくる。このとき彼は一体どのような気持ちだったのだろう。オバマの視線は、群集の波の遥か向うリンカーン記念堂を見据えていただろうか。
アメリカらしくフォーマルなセレモニーとしてはフランクな印象なのだけれど、要所で雰囲気を締めてくれるプログラム構成だった。アレサ・フランクリンの独唱も良かったし、パールマンとヨーヨー・マ、ピアニスト、クラリネット奏者による超絶アンサンブルには釘付けになった。なのに、NHKときたらコメンテーターの声を無神経にかぶせるときたもんだ。後で調べてみたら、作曲・指揮はジョン・ウイリアムスだった。題は'Air and Simple Gifts'、この日のためのオリジナル曲だそうな。
オバマの就任演説は、聴衆を鼓舞しアジテートするようなものではなく、どちらかといえば淡々としていた。アメリカのこれまでの苦難の歴史や自分の父親をはじめとする先人の努力と犠牲を振り返りつつ、この危機的な状況にあって、今一度建国の精神に立ち返りながら共に希望と美徳を携えて未来に挑戦しよう、この国の意思と遺産を子供たちの子供たちに継承していこう、というものだった。ところどころで具体的な情景をはさみこみながら物語るようなオバマの語り口には好感が持てた。アメリカの人々はどのように受け取ったことだろう。
大統領就任の日、アメリカ国民にとって希望の始まる日、それでもニューヨークの株価は下落した。現在の状況が大統領就任くらいで楽観できるようなものではないことを市場は示した。一時的な熱狂が過ぎ去った後には厳しさに耐えなければいけない日々が待っている。オバマの演説はそれを見越したものだっただろう。人々の気持ちが倦んでくるとき、彼の地位もまた脅かされることになるのかもしれない。
下の写真は去年の夏にファミリー・オークションでアメリカ人の遠戚から手に入れたオバマTシャツ。そのころすでにオバマは熱狂の渦中にあった。変革を叫ぶ彼の姿はキング牧師やマルコムXを連想させたということか。オバマの大統領就任にむけてのマイナス要因としては暗殺リスクという事柄も指摘されていたという。それを考えるとこのTシャツにも何やら不穏な影が差しはじめる。
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