「“Happiness is The Road” Marillion 15th album」
soundscape
そして先日、わたしのもとにもマリリオンの新作『Happiness is The Road』が届きました。
プレ・オーダーははじめての試みでしたが、こうして手にするまでが結構長かったなという感じです。サイトでの告知が去年の10月くらいだったでしょうか。オーダーしたのが去年の暮れで、当時は今年の夏前にはアルバムが仕上がるということでしたが、結局秋までずれ込みました。
それでも、限定版デラックス・エディションの丁寧なつくりには満足しています。通常のCDケースよりもひとまわり大きな形状で、紙箱製のスリップ・ケースの中に2冊の装丁本がセットで収められるようになっています。それぞれ美しいハードカバーの100頁弱のピクチャー・ブックとなっていて、見返しにCDの収納フォルダーが張り付けられています。アートワークは歌詞に関連した幻想的な写真や象徴的な図像のコラージュで、作品世界の視覚的な表現として、これがあるのとないのでは、アルバムの印象も変ってくるのではないでしょうか。

プレ・オーダーしたWEBメンバーの名前のクレジットですが、2冊目のピクチャーブックの頁に組み込まれており、銀の地に白で細かくびっしりと名前が印刷されており、その量の多さには驚きました。名前の頁は22頁あって1頁当り52行で1行当り8,9人の名前が並んでいるのでおよそ1万人がオーダーしたことになります。とてもこの中から自分の名前など見つけられないなと眺めていたら、それがABC順に並べられていることがわかりなんなく自分の名前も見つかりました。
さて“Happiness is The Road”、その音楽のほうは、1枚目がVolume1“essence”となっており、一続きのコンセプトアルバムとなっています。正確には11曲中最初の10曲が一つながりとなっており最後の曲は2分間のブランクの後に配されコンセプトとは独立した2枚目のvolume2“the hard shoulder”への幕間の間奏曲のような位置づけです。
“essence”はゆったりとした静かな展開の曲が続きます。夢見ているようにつぶやき囁きかけ時に切々と詠い上げるスティーヴ・ホガースのヴォーカルを軸に曲はどんどん移り変わっていきます。バックの演奏は個々が主張することなく、ホガースのヴォーカルに寄り添うようにしっとりとしたアンサンブルを奏でます。映画の場面がどんどん移り変わるように、車窓の風景がどんどん背後に走り去るように、曲を聴きながら旅をしているような感覚にもなります。
その旅は、「わたし」の内面への旅でもあるかのようです。この楽曲のコンセプトは、ホガースがハードなツアーからくるストレスと疲労により内面の危機を迎えた経験がもとになっています。その時、カウンセリングしてもらったオランダのユトレヒトの医者に紹介された1冊の本が“essence”や“Happiness is The Road”のモティーフとなっています。その本というのが、エックハルト・トールの“The Power of Now”というトランスパーソナルな内容の本です。幸福は到達すべき目的の中にあるのでも、幸せだった過去の中にあるのでもない、生きている今のなかにこそ幸福がある、今進みつつある道行きそのものが幸福なのだ、と、平たくいえばそういうことのようです。何気ない日常の中に無限を感じること、毎日が苦しく耐えられないものであっても、今を生きる自分の心の奥深く降りていき、自分の存在性に配慮し、人生や生命の価値を自覚すること。そのようにして生の本質を悟ることの大切さが示されます。“essence”が、瞑想的で、ある種のヒーリング・ミュージック的な趣をもつのも、このようなコンセプトによるものでしょう。
Happiness ain't at the end of the road HAPPINESS IS THE ROAD
2枚目のvolume2“the hard shoulder”は、独立した曲を集めたもので、一貫したコンセプトは無いということですが、“essence”同様、ゆったりとした曲想が連続するので、1枚目から世界が連続しているような感じです。雄大なアンサンブルで聴かせる7分から9分のドラマティックな大曲もいくつかあります。
作品が届けられてから、ヘビー・ローテーションで繰り返し聴く毎日ですが、いい意味ですぐには輪郭をなぞり難く、じっくりと聴きこむことを要求する音楽です。さらりと聴こうとすれば聴けてしまう。極めて陰影に富んだ音の連なりとホガースの歌(詩)、そしてアルバムのアートワークのイメージをともに辿っていくことで一編の美しい映画を見たときのような充足感が得られます。いずれにせよこの作品もマリリオンの代表作の一つとなるでしょう。
とにかく、現在のマリリオンはスティーヴ・ホガースがフロントのバンドであり、楽曲もホガースのヴォーカルが軸となって展開していることを改めて印象づけた作品となりました。マリリオンが結成されて25年、フィッシュが脱退しホガースが加入してもうすぐ20年、もはやバンドはMarillion featuring Steve HogarthからSteve Hogarth with Marillionというところまできているようです。

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投稿者: イネムリネコ
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