2009/7/22
今日は日蝕です。午前11時前後、鹿児島県の南部、トカラ列島から奄美諸島にかけては日本で46年ぶりの皆既日食が見られるそうです。天気が良くなればいいですね。
トカラの島々からみる日蝕というのも、神秘的でいいですね。
学生時代、トカラ列島の島々を訪れたことがありました。奄美大島のすぐ北にある宝島では1週間ほどキャンプを張り、海で遊んだり洞窟を探索したりしました。島には男子禁制の女神山という祀られた山があったり、大鯰が出るという古い沼があったり、岬の灯台のあたりは奇岩が聳え立っていたり、地下には鍾乳洞が縦横に伸びていたりと、「宝島」という島の名に違わぬワンダーランドでした。
そんな島にも20軒ほどの集落がありましたが、島の人々はいったいどのようにして生計を営んでいたのだろうと、今思うと不思議です。もともと琉球と一連なりのヤポネシアの一つですから、基層の文化は南方系でしょうけれど、当時島人に振舞われた酒は、薩摩白波でした。そのころの白波は全くの土着の酒で、非常に香りがきつかったことを憶えています。
夜通し酒を飲んで酔っ払ったまま浜で寝そべりながら、夜明けとともに空が東のほうから明るい色に染まっていくのを陶然としながら見ていました。大自然の中にいると全身が感覚器官となって、普段の時間感覚も空間感覚も麻痺して、それだけで十分トリップできるものです。その時、バックで古いラジカセから大音量で流していたのはクラウス・シュルツの『タイムウインド』だったでしょうか、それともタンジェリン・ドリームの『Zeit』だったでしょうか。
日蝕の浜辺ならば、キング・クリムゾンのデュオニュソス的な大曲「太陽と戦慄 Part1」がより神秘的で似つかわしいですね。太陽の輝かしい光彩はともかくとして、前方を通り過ぎる月の暗黒の表面にも心が惹かれます。


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2009/6/30
水無月も終わりです。充実した楽しい月でした。
月が変れば、本格的な夏は眼の前です。
わたしにとって今年の水無月は、忘れられない月となりました。
これほど紫陽花を意識した年もなかったでしょうか。
情景とともに紫陽花の様々なイメージが浮かび上がります。
思い返せば一年ほど前、それは予兆として訪れ(音連れ)があったのです。
あれから一年、めまぐるしく物事が動いたような気もしましたが、
今はもう、すべて夢のようです。
季節は廻り、花は再び咲くでしょうか。
その願いを今年の紫陽花の記憶に託して…
雨上がり染まる なだらかな道 紫陽花の花が つづいてゆく
薄紫に蘇る いつか託した 願い
移りゆく空と 恋はつれづれ 紫陽花の花が つづいてゆく
あの日のあなたを 守りたかった さみしさの色は 拭いきれず
丸い窓から 水無月の いつかこぼれた 雫
誰かの涙が 滲んだような 紫陽花の花が つづいてゆく
廻る季節 眠る思い ゆらりゆらめく 月が見ていた
移りゆく空と 恋はつれづれ 紫陽花の花が つづいてゆく
誰かの涙が 滲んだような 紫陽花の花が つづいてゆく
「ミナヅキ」Lyrics &compose by MIMORI YUSA


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2009/6/18
変ることで残るもの
閉じることで貫くもの
星の数ほどそれぞれの 愛のかたち
離れることで繋ぐもの
消え去ることで響くもの
星の数ほどそれぞれの 愛のかたち
Hill of Tara
雨に濡れ
風に騒ぎ
泥に埋もれながら
浮かび来る 古の丘に
Hill of Tara
緑萌え
時を渡り
色あせながら
香り立つ 古の丘に
いつの世も
たったひとりの人に歌う調べ
悲しみの靴履いた
吟遊詩人の足音
失うことで見えるもの
手放すことで満ちるもの
星の数ほどそれぞれの 愛のかたち
“Hill of Tara” from 『Ave』 Music&Lyrics by Asuka Kaneko

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2007/12/9
黒沢清の『叫』では、葉月里緒奈演じる幽霊が大胆なパフォーマンスを見せてくれて楽しかったのだけれど、中でも幽霊が遥か彼方の空に向かって飛んでいくシーンが印象的だった。多くの人はほとんど映画的な受けねらいのシーンと受け取っただろうけれど、金属質の叫びを発し、空を飛ぶ幽霊を見ているうちにずいぶんと昔のことを思い出した。
それは学生時代、学生寮に住んでいたときのことである。山の中腹の丘の上にあった当時の寮は鉄筋コンクリート4階建てで、私の部屋は4階の一番西端にあった。六甲山から吹き降りてくる風で窓や扉を開けっ放しにしておけば風通しも良く、夏の熱帯夜でも快適だった。部屋の窓は南向き、外側にはベランダもついており、寮の建物の下は崖となっていてその下は当時高校のグラウンドだったから非常に開放的で、神戸港の埋立地や大阪湾のパノラマが広がる好立地である。
ある夏の夜、いつものように窓を開け放しにしてパイプベッドで寝ていたわたしは、外で誰かが騒いでいるのを夢うつつの状態で聞いていた。窓の外、グラウンドのむこう側にあった集合住宅の駐車場あたりで一組の男女が何かもめていて、若い女性が男に向って怒鳴り散らしている。
わたしは体は眠っているのに聴覚は冴えたような状態で、近所迷惑だな、近くの住民が目を覚まして出てこないのだろうかと眠りの中で意識を働かせている。そのうち口喧嘩のような状態がエスカレートしてきて女性の声も叫び声のような調子になってきた。このままだと流血騒ぎにまでなりそうな勢いで、なにやら剣呑な雰囲気がこちらまで伝わってくる。そしてお互いもみあうように何やらくぐもった声で言葉を投げかけあったと思ったら、女性のほうが突然の叫び声を上げた。
最初の一声がギャーと大きく聞こえたと思ったら次にそれは真空に吸い込まれたような調子で一瞬遠くなり、その次にその声はまるで矢で放たれたかのように闇をつんざくような大音響をともなってこちらに真っ直ぐ向かってきたのだ。それはまるで衝撃波のように寝ているわたしの脳天を貫き脊髄を通り抜けていったのである。
わたしは驚いてベッドから飛び起きてそこで完全に目が覚めた。そして、これはもう確実に警察沙汰だなと思いながらベランダから身を乗り出して声が聞こえてきたほうを見やった。ところが夜の街はひっそりとして落ち着き払っている。男女の声はもう全く聞こえないし動く人影もない。夜の街も寮の内部も皆寝静まっている。わたしはキツネにつままれたような感じでしばらくぼんやりとベランダで突っ立っているばかりだった。翌朝、寮の住人に聞いてみたが、そのような声を聞いた人間は誰もいなかった。
その寮のわたしの住んでいた部屋では、過去に二人ほど自殺していた。そのことはその部屋に移り住んでしばらくして友人から知らされた。といっても寮生活自体がわたしにとって非常に居心地のいいものだったから、普段は何事もなく平穏にそのことが全く意識に上ることもなく過ごしていた。それでもやはり、時々感じることがあった。幽霊が出るとかいったことではない。わたしが感じたのはその部屋が何かの通り道になっているということだ。
時々、何かが通り過ぎていくのだ。それはツルリと冷たい触感を伴うものであったり、ネコのようにまとわりつくような感覚を伴うものであったり様々だった。そして先ほどの叫び声も、それら通り過ぎるものの一つだったのだ。そういったこととその部屋で自殺があったということの間にはおそらく直接の関係はないと思うのだけれど、その部屋がどこか別のところへつながっている道の真ん中にぽつんと浮かんでいる泡のような空間だったのだとすれば、中にはその空間を通り抜けて道を向こう側へ歩き始めるものもいるのではないだろうか。

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